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「そ、そうだったのか……」紘は初めて知った事実に呻いた。
「ひょっとして首都に来たのは初めてとか……」瓏琳が小首を傾げる。
「悪かったな! 初めてだよ!」紘は物心付いて以来あの街から出た事は無かった。何処に行っても同じ,と思っていた所為でもある。「しかし首都だからってそれじゃあ不便じゃないか?」
「確かに。但し防御の為には楽だよな。この壁の四隅には見張り塔が設けられているし、一番厳重にすればいい場所もこちらで選べるんだからな」
出入り出来るのがその門だけである限りは、その門周辺を重点的に警戒すればよい。そしてその警戒態勢を可能とする為の長大な壁は、その見張りによって守られているという訳だ。
「しかし何だってそこ迄……。確かに物騒な国ではあるけど、仮にも首都と言えば神帝のお膝元だろう? そんな所なのに……」
「そんな所だからだろ。神帝にもしもの事でもあればこの国はばらばらだぞ?」解り切った事を訊くなよ、と言いたげに瓏琳が言った。「この街の中でさえ神帝の足元狙ってる様な狸や妖怪がごろごろ居るのに」
「悪かったな。田舎者はそこ迄気が付かなくて」
「や、やっぱり捻くれてる……」
「今頃確認してんのかよ」紘は開き直る。
「悪かったな。捻くれ者の心理が解らなくて」
「素直なもんでって? よく言うぜ」紘は肩を竦める。
それにしても、何だかんだ言いながらいつの間にか「お友達」にされてる様な気がするな――紘は内心苦笑しながら考える。瓏琳とのささやかな喧嘩が却ってよかったのかも知れない。アレで遠慮が無くなった。まぁ、元々それ程遠慮などしていなかったが。
しかし緊張感が無いのはどうにかならないものだろうか。辺境地に迄行こうと言うのにこれでは能天気過ぎる。
「冗談は兎も角――」柘羅が紘の不安に気付いたかの様に、割って入った。「この門を出るのが取り敢えず一番の難問だね」
「そんなに警戒厳重なのか?」紘は訊く。「出る方も?」
「特にこういう顔の奴にはな」瓏琳が柘羅の顔を指差して言う。
「お前……ひょっとしてお尋ね者とか……」
「僕は何もしてないよ」
「脱獄の常習犯だろ?」瓏琳が笑う。
してみれば此処は彼等にとっては牢獄同然なのだろうか? 確かに、自由に外に出る事も出来ないと言うのであれば然して変わりない様だが。
しかし解らない国だ、と紘は首を捻る。どうしてこんな能天気な少年が自分の意思で都を出る事も出来ないのだろうか。こんな奴一人何処へ行こうとどうって事ない筈なのに。それに都から逃げる様に出たがる奴も珍しい。どちらかと言えば辺境から都へ、というのが普通の筈だ。尤も、出る事を禁じられていれば、誰だって出たがるかも知れないが。
どうも柘羅の身元に問題がある様ではあるが、何とはなしに追求し難い。家族の事は話したくない、そんな気配が彼にあるからだ。
「で、出れば出たでまた追っ手が掛かる、と」紘は態とおどけて言う。「やっぱ止めるか?」
「駄目だよ!」柘羅が彼らしからぬ激しい声で反駁する。「行かなきゃ……! どうしても、幽鬼の塔に行って水晶の部屋を探さなきゃ……」
何がそんなに哀しいんだ、と思わず訊きたくなる程、柘羅の表情は歪んでいた。彼には本当の悩みなどというものも無いんだろうと思っていた紘は些か面食らう。やや潤んだ、紫掛かった黒の眼が、じっと、上目遣いに紘の眼を見詰めている。これでは冗談にも「止める」などとは言えない。
「解ったよ。冗談だって、ほんの……」思わず目を逸らしながら、紘は言った。「で、そこはお前以外の者なら少なくとも通して貰えるのか?」
「それ程自由ではないけれど大抵は通行可能だよ。身元がはっきりしているか、保証がある場合は殆ど自由と言っていいね」
「……よく俺を此処迄連れて来られたな……」紘は改めてその事に思い至る。何の保証も無い、身分も無い自分がどうして此処迄通されたのだろう。柘羅の術で眠らされていた為に何も覚えていないのだが、簡単に通されたとも思えない。
「こいつを助けてくれたからな」瓏琳が苦笑しつつ、柘羅を親指で示す。「特別さ。ま、怪我が治る迄って事になってるけど……」
「なかなか治らねぇもんな」紘自身が後を引き取り、苦笑する。
「直に治るよ」と、柘羅。
「だといいがね」
「捻くれてんのは治りそうにないな」瓏琳が肩を竦める。
「治す気も無いね。況してやお前等みたいなのと旅に出るんだ。多少捻くれてねぇと……外の人間全て信用する様じゃ、危なっかしくてならねぇもんな」
「おいおい、俺だってそこ迄お人好しじゃないぜ?」流石に瓏琳が口を挟んだ。「俺だって信用していい奴とよくない奴の見分け位付くさ」
柘羅に関しては否定しないらしい。
「けど俺みたいなのを柘羅に近付けてるじゃないか」
「お前は柘羅が選んだんだ。それに捻くれちゃいるとしても、そう悪い奴だとは……」
「ほらほら、それが甘いって言うんだよ」紘は不意に狡賢い薄笑いを浮かべて見せた。「もし、俺がこの機に乗じて柘羅を連れ出した後、この邸に脅迫状でも突き付けたらどうする? 自分から出て行くって言うんだから誘拐犯としてはこれ以上扱い易い奴は居ないぜ? この邸にどれ程の財産があるのか知らねぇけど……ま、この部屋にある調度からすれば、脅してみる価値はあるかもな」
「……どこ迄捻くれてるんだ……」瓏琳は些か呆れた様だった。「けど、ま、確かにその可能性もあった訳だな……」
初めて思い至ったらしい彼の態度に、紘は隠れて溜め息をついた。本当にこんな連中と旅になど出て大丈夫なのだろうか。帰って来る迄――そもそもそれがいつになるかも解らないのだが――胃がもつだろうか。
―つづく―
「ひょっとして首都に来たのは初めてとか……」瓏琳が小首を傾げる。
「悪かったな! 初めてだよ!」紘は物心付いて以来あの街から出た事は無かった。何処に行っても同じ,と思っていた所為でもある。「しかし首都だからってそれじゃあ不便じゃないか?」
「確かに。但し防御の為には楽だよな。この壁の四隅には見張り塔が設けられているし、一番厳重にすればいい場所もこちらで選べるんだからな」
出入り出来るのがその門だけである限りは、その門周辺を重点的に警戒すればよい。そしてその警戒態勢を可能とする為の長大な壁は、その見張りによって守られているという訳だ。
「しかし何だってそこ迄……。確かに物騒な国ではあるけど、仮にも首都と言えば神帝のお膝元だろう? そんな所なのに……」
「そんな所だからだろ。神帝にもしもの事でもあればこの国はばらばらだぞ?」解り切った事を訊くなよ、と言いたげに瓏琳が言った。「この街の中でさえ神帝の足元狙ってる様な狸や妖怪がごろごろ居るのに」
「悪かったな。田舎者はそこ迄気が付かなくて」
「や、やっぱり捻くれてる……」
「今頃確認してんのかよ」紘は開き直る。
「悪かったな。捻くれ者の心理が解らなくて」
「素直なもんでって? よく言うぜ」紘は肩を竦める。
それにしても、何だかんだ言いながらいつの間にか「お友達」にされてる様な気がするな――紘は内心苦笑しながら考える。瓏琳とのささやかな喧嘩が却ってよかったのかも知れない。アレで遠慮が無くなった。まぁ、元々それ程遠慮などしていなかったが。
しかし緊張感が無いのはどうにかならないものだろうか。辺境地に迄行こうと言うのにこれでは能天気過ぎる。
「冗談は兎も角――」柘羅が紘の不安に気付いたかの様に、割って入った。「この門を出るのが取り敢えず一番の難問だね」
「そんなに警戒厳重なのか?」紘は訊く。「出る方も?」
「特にこういう顔の奴にはな」瓏琳が柘羅の顔を指差して言う。
「お前……ひょっとしてお尋ね者とか……」
「僕は何もしてないよ」
「脱獄の常習犯だろ?」瓏琳が笑う。
してみれば此処は彼等にとっては牢獄同然なのだろうか? 確かに、自由に外に出る事も出来ないと言うのであれば然して変わりない様だが。
しかし解らない国だ、と紘は首を捻る。どうしてこんな能天気な少年が自分の意思で都を出る事も出来ないのだろうか。こんな奴一人何処へ行こうとどうって事ない筈なのに。それに都から逃げる様に出たがる奴も珍しい。どちらかと言えば辺境から都へ、というのが普通の筈だ。尤も、出る事を禁じられていれば、誰だって出たがるかも知れないが。
どうも柘羅の身元に問題がある様ではあるが、何とはなしに追求し難い。家族の事は話したくない、そんな気配が彼にあるからだ。
「で、出れば出たでまた追っ手が掛かる、と」紘は態とおどけて言う。「やっぱ止めるか?」
「駄目だよ!」柘羅が彼らしからぬ激しい声で反駁する。「行かなきゃ……! どうしても、幽鬼の塔に行って水晶の部屋を探さなきゃ……」
何がそんなに哀しいんだ、と思わず訊きたくなる程、柘羅の表情は歪んでいた。彼には本当の悩みなどというものも無いんだろうと思っていた紘は些か面食らう。やや潤んだ、紫掛かった黒の眼が、じっと、上目遣いに紘の眼を見詰めている。これでは冗談にも「止める」などとは言えない。
「解ったよ。冗談だって、ほんの……」思わず目を逸らしながら、紘は言った。「で、そこはお前以外の者なら少なくとも通して貰えるのか?」
「それ程自由ではないけれど大抵は通行可能だよ。身元がはっきりしているか、保証がある場合は殆ど自由と言っていいね」
「……よく俺を此処迄連れて来られたな……」紘は改めてその事に思い至る。何の保証も無い、身分も無い自分がどうして此処迄通されたのだろう。柘羅の術で眠らされていた為に何も覚えていないのだが、簡単に通されたとも思えない。
「こいつを助けてくれたからな」瓏琳が苦笑しつつ、柘羅を親指で示す。「特別さ。ま、怪我が治る迄って事になってるけど……」
「なかなか治らねぇもんな」紘自身が後を引き取り、苦笑する。
「直に治るよ」と、柘羅。
「だといいがね」
「捻くれてんのは治りそうにないな」瓏琳が肩を竦める。
「治す気も無いね。況してやお前等みたいなのと旅に出るんだ。多少捻くれてねぇと……外の人間全て信用する様じゃ、危なっかしくてならねぇもんな」
「おいおい、俺だってそこ迄お人好しじゃないぜ?」流石に瓏琳が口を挟んだ。「俺だって信用していい奴とよくない奴の見分け位付くさ」
柘羅に関しては否定しないらしい。
「けど俺みたいなのを柘羅に近付けてるじゃないか」
「お前は柘羅が選んだんだ。それに捻くれちゃいるとしても、そう悪い奴だとは……」
「ほらほら、それが甘いって言うんだよ」紘は不意に狡賢い薄笑いを浮かべて見せた。「もし、俺がこの機に乗じて柘羅を連れ出した後、この邸に脅迫状でも突き付けたらどうする? 自分から出て行くって言うんだから誘拐犯としてはこれ以上扱い易い奴は居ないぜ? この邸にどれ程の財産があるのか知らねぇけど……ま、この部屋にある調度からすれば、脅してみる価値はあるかもな」
「……どこ迄捻くれてるんだ……」瓏琳は些か呆れた様だった。「けど、ま、確かにその可能性もあった訳だな……」
初めて思い至ったらしい彼の態度に、紘は隠れて溜め息をついた。本当にこんな連中と旅になど出て大丈夫なのだろうか。帰って来る迄――そもそもそれがいつになるかも解らないのだが――胃がもつだろうか。
―つづく―
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Re:たっくん
今度はたっくんですかい(^^;)
拓じゃなくて柘なんだけどね(笑)
読みが違うのさ~☆
兵糧攻めに弱いから余計に琳璃みたいのをあっちこっちに派遣して(勿論彼女以外にも居ます)情勢探ってるんだろうな。周りが結託しなければ落とせない位は戦力あるもん。
拓じゃなくて柘なんだけどね(笑)
読みが違うのさ~☆
兵糧攻めに弱いから余計に琳璃みたいのをあっちこっちに派遣して(勿論彼女以外にも居ます)情勢探ってるんだろうな。周りが結託しなければ落とせない位は戦力あるもん。
Re:確認するの?
何を?
と言うか、君の投稿の意味を確認したい!
と言うか、君の投稿の意味を確認したい!
Re:ふぅ~む・む・む!
済みません、展開遅くて……(^^;)
柘羅の身元は……おいおい出てくる筈(苦笑)
柘羅の身元は……おいおい出てくる筈(苦笑)