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「余計な事でも言いに出ないとお前に全部言われて台詞が回って来なくなるからな」
「あー、可愛くない言い方!」
「妹に可愛いなんて言われて堪るものか」瓏琳は肩を竦めた。
何だ、兄妹か?――紘は改めて二人を見比べた。
外見的にはそれ程似ている様には見えない。言われて見れば目元が似ているかな、という程度だ。
琳璃は然して背が高くなく、それでいて引き締まった容姿をしている。鍛えているらしいのはその事からも窺える。やや吊り気味の目は大きく、黒水晶の様に澄んだ黒だ。丸顔だが、表情には緊張感が漂っている。唇は薄紅をひいた様にほんのりと紅く、その中の真っ白い歯を際立たせている。鼻はそれ程高くないものの、なかなか可愛い顔だ。黒い髪は頭の上に結い上げ、絹を巻いている。
それに対して瓏琳はと言えば、屈強な男達の中に混じってもそれ程見劣りする事無く、それどころかその中でも特に目立つ長身の持ち主だった。しかし、体格そのものは細く、それ程頑丈そうにも見えない。目は普通位の大きさだが、やはり綺麗な黒だ。顔は妹と違って細面。鼻筋が通っていてなかなか綺麗な顔立ちだ。尤も、柘羅とは違い、肌は浅黒く焼けている。黒い髪もやや日焼け気味で、茶色くなり掛かっている。その髪は短く切り揃えられている。
しかし、こいつ等一体何者なんだ?――紘は首を傾げずにはいられない。特に柘羅。こんな連中が連れ立って迎えに来る奴というのは、一体どんな身分なのだろう?
「しかしそれは兎も角」瓏琳はふと表情を改めて、紘を振り返った。「詞維和を庇ってくれて有難う。こいつに何かあったら俺達は全員首を刎ねられる所だった」
刎ねられる、が果たして只のお役御免の意味なのかどうか、紘は疑問に思った。彼の表情が妙に真剣だったから。
「いや、別に……」特に助けた心算も無かった紘は口の中で答えた。「じゃ、お迎えも来た様だから、俺はこの辺で……」
そう言って離れ掛けた紘の着物の袖を、柘羅が引いた。
「待ってくれないか。礼位させて欲しい」彼は紘を捕まえた儘、言った。彼の友人だか何だか解らないが、琳璃たちと話している時より砕けた口調だ。
「何言ってんだよ。俺は別に何も……」紘は柘羅の耳にだけ聞こえる様な小声で言う。
「手を貸してくれたじゃないか」柘羅も小声で言い返す。「あの儘一人で逃げる事も出来たのに」
「逃げときゃよかったよ」紘は肩を竦めた。「あんな力があるんなら放っといたってどうって事なかったんだろ?」
「いや……。あの三人に一時に掛かって来られたなら、多分あの手も使えなかっただろう。気が散って……」柘羅は小さく頭を振った。
「ばっ……馬鹿かよ! そんじゃ何でさっさと逃げなかったんだよ? 俺がお前放っぽって逃げ出したらどうする気だったんだ?」
「けれど逃げなかっただろう? 君は」柘羅は微笑む。
「それは結果論ってものだ」紘は苦々しげに決め付けた。「大体俺が一発でくたばっちまう可能性だってあったんだからな。そうなれば結局お前一人だ。けれどやられなかっただろう、なんて言うなよ? それも結果論だ」
「……」言う心算だったらしく、柘羅は暫し黙り込んだ。が、紘の袖を掴む手は放していない。
大体何だってこいつは俺に付いて来たんだっけ?――紘は改めてそれを考える。あいつ等が現れた事で話が途切れてしまっていたのだ。
先程、何故付いて来るのかという紘の問いに、彼は「君が霊が視えないから」などというふざけた答えを返した。そして、紘の後ろにとんでもないものが憑いているとも言っていた。
それを思い出して、紘は思わずぞっとした。彼には霊は視えない。だから本当にそんなものが憑いているのかどうかも、自分では確かめる事が出来ない。そして無論、気付きもしない位だからどうにかする事も出来ない。
下手をすると身体を盗られるかも知れないとも言ってたよな――紘は、自分がこの身体に結構愛着を持っている事に今更ながらに気付いた。まぁ、こんな事でも無ければいちいちそんな事を確認する者も先ず居ないだろうが。
こいつには祓えるのだろうか? 紘は不可思議な力を持つ柘羅を見遣った。霊を視る位ならこの国の者なら大抵は出来るのだが、あんな真似が出来る者など他には聞いた事も無い。彼の力は生者のみならず死者にも効くのだろうか?
しかし、先程邪険にした所為で、今更そんな事を訊くのも躊躇われた。大体それ程迄に信用していい奴かどうかも判らない。未だ会ったばかりだし、彼に関しては何も知らないのだから。
それに、紘の口は半ば反射的に、彼の意思とは反する事ながらも口走っていた。
「おい、いい加減放せよ」と。
だが、柘羅は思いの外強情に頭を振った。
そして、ふと笑った。
「駄目だよ。放せない。折角探し出したんだから……」
「え……?」紘は目を丸くした。探し出したとはどういう事だろう。彼とは会った事も無いのだから紘の事を知っていた筈はない。知らない者を探す筈もない。
不意に、そう考える紘の頭の中が曇りだした。何か得体の知れないものが入り込み、靄を作り出している様だ、と紘は感じたが、それすらも一瞬後には解らなくなっていた。身体が妙に重い。その重い身体の更に奥深くに、意識が沈んで行くのだけはぼんやりと感じられた。
柘羅が慌てた様子で何か言っているのが耳に飛び込んできたものの、彼の意識は最早それが何であるかを判断する力も無かった。
「先程どこか打ったのかも知れない! 早く邸へお連れしてくれ!」
紘にはもう、その招待を断る事も出来なかった。
―つづく―
と言うか、なかなか進まんな(笑)
と言うかタイトルを途中で切るな(^^;)