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「お前、何やったんだよ?」呆気に取られた儘、紘は柘羅に尋ねた。
「何も」柘羅は不意に苦笑を浮かべた。
「何もしてないのにあいつ等があんなになるかよ」紘は疑わしげに目を眇(すが)める。「一体何をしたんだ?」
「何もしていない」と、柘羅は繰り返した。「只……」
「只?」ほら見ろ、何かやったんじゃないかという目をしながらも、紘は促した。
「彼等に子供の頃の事を思い出させただけだよ」
「子供の頃の事?」紘は虚を突かれた。
「彼等は余り幸福な子供時代を送っていなかったらしい。だからあんなになったのだろうけれど……。それを一時に思い出させたんだ。彼等はそれを恐れていたから、拒絶反応を示した。思っていた通り……」
「お前……そんな事出来るのか?」霊さえ視えない紘はやっかみ半分だった。「大したもんだな……!」
「出来る。けれどやりたくはない」柘羅は、思いがけず傷付いた様子を見せて俯いた。
紘は悪い事をした様で、決まり悪かった。落ち着かなげに身動(みじろ)ぎし、柘羅から僅かに視線を逸らす。
「けれど、君の様に喧嘩が強い訳ではないから……ああでもしなければ自分の身一つ守れないんだよ」
それも、そうだな――紘は納得した。柘羅の華奢な身体を見ると、多分喧嘩などとは縁の無い生活を送って来たのだろうと思われる。それどころか、力仕事とも。こんな奴が身を守るには、確かにああいった異常とも言える力が必要だろう。
しかしそれなら尚更、どういう奴なのだろう。あんな力を持ち、そしてその力を使いたがってはいない――なのに、こんな所に来た。此処では力を使う破目になる可能性が格段に高くなるのは解り切っている筈なのに。
大体どうしてこんな所に来たのだ? 一体どんな用があって?
今度こそ本気でそう問い掛けようとした時だった。
未だ甲高い、少女の声がそれを遮った。
「詞維和様みっけ!」
続いてどたばたと駆けて来る足音がしたが、断じてそれは一人分ではなかった。それはこちらに、詰まり彼等の方に向かって来ていた。
途端に、柘羅の顔に困った様な表情が浮かんだ。あのチンピラどもに絡まれそうになった時でさえ動じなかった彼がだ。
『柘羅』が諱だとすれば――と紘は考えた――世間一般に使用される名前がある筈だ。それは未だ聞いていない。とすれば、柘羅の名が『詞維和』であってもおかしくはない。
しかし、彼を様付けで呼び、そして彼を困らせる事の出来る少女というのはどんな娘なのだろう、と思い紘は足音のする方を振り返った。
途端に、彼は目を丸くした。
足音が一人でないのは解っていた。しかし、真逆これ程の大人数とは思わなかった。どう見積もっても、十人は超えていた。お迎えにしては随分だ。
その先頭に、未だ十五、六歳と思われる少女が居た。彼女が声の主だろう。後は皆、屈強な男性ばかりだから、間違いない。
「まーったくもう……!」彼女は柘羅の傍に辿り着くなり、大きく息をついた。「詞維和様ってば! 此処がどんな所か解っておいでの癖に態々手間を掛けさせてくれるんですから!」
「琳璃(りんり)……」柘羅――礼儀としては詞維和の方を呼ぶべきだが、彼が先ずそう名乗ったのだからこれで通してもいいだろう――の困惑の表情は更に深まった。「済まなかった。しかし解っているだろう? 私が此処へ来なければならなかった理由は……」
「ええ、ええ。詞維和様曰く、社会勉強の為でしたっけ? よく解ってるわ」様付けする割にはぞんざいに、そして親しげに、琳璃と呼ばれた少女は言葉を続けた。「詞維和様が此処がどういう所なのか御存知なのと同じ位にね。けどせめて、私か瓏琳(ろうりん)を連れて来る位の用心はして頂きたいの。良くって?」
「解った……」溜め息混じりに、柘羅は答えた。
「本当に解ってるんでしょうね?」琳璃は疑わしげに目を眇めた。「いつもそんな事言う割には解ってないんだから」
紘は他人の事ながらその言い方にムカッときた。過去の事をいつ迄も持ち出して相手を決め付けるというのは人間の悪い癖の一つだ。それに柘羅は解ったと言っているのだ。それでいいではないか。
「ところで……」不意に、琳璃が彼を振り返った。
彼女の態度に反発を感じていた為か、紘は真っ向からその視線を受け止めた。しかし、こんな時でなければ、余り正面から対峙したい相手ではないとも思う。眼の力が強いのだ。やや吊り気味の、綺麗な目ではあるのだが、何処か険しい。柘羅同様、いい身形をしてはいるが、只の金持ちの令嬢ではないのかも知れない。
「この方は?」彼女は柘羅に訊いた。紘を軽視している様子ではないが胡散臭げな表情を隠そうともしていない。
「不埒な者達に絡まれた所を助けて貰ったのだ」
そうだったか?――と紘は柘羅の答えに小首を傾げる。確かに手は出した。しかし、彼等が逃げて行ったのは主に柘羅の力による所であった様に思われる。
「ああ、そう言えば、さっき慌てて逃げて行く連中と擦れ違ったわ」琳璃が思い出した様に言う。「多分あの三人がそうだったのね。何だ、それならとっ捕まえてやればよかったわ」悔しげに口を尖らせる。
「そなたに捕まらなかったとは……奴等にとっては幸運であったな」柘羅が珍しく、冗談めかして笑う。
「どういう意味よ」琳璃は両の手を組み合わせ、関節を鳴らした。「こんな所に一人で出て来てもいい様に……鍛えて差し上げてもいいんですのよ?」
「止めて置け。お前が手を出すと碌な事にならん」彼女の後ろの集団の一人が進み出て言った。「大体お前に鍛えさせたりすれば詞維和はこんな所どころか何処にも出歩けない身になり兼ねない」
様を付けなかったな――紘は彼等の言葉を逐一検討して、状況を把握しようと努めていた――余程親しいって事か? あの琳璃って娘よりも?
「瓏琳! 余計な事だけは言いに出て来るんだから!」琳璃が彼を振り返って怒鳴った。
どうやら彼が先程名前の出た『瓏琳』らしい。こんな所に来るにはせめて連れて来るべき相手。それだけ、腕が立つと言うのだろうか?
―つづく―
「何も」柘羅は不意に苦笑を浮かべた。
「何もしてないのにあいつ等があんなになるかよ」紘は疑わしげに目を眇(すが)める。「一体何をしたんだ?」
「何もしていない」と、柘羅は繰り返した。「只……」
「只?」ほら見ろ、何かやったんじゃないかという目をしながらも、紘は促した。
「彼等に子供の頃の事を思い出させただけだよ」
「子供の頃の事?」紘は虚を突かれた。
「彼等は余り幸福な子供時代を送っていなかったらしい。だからあんなになったのだろうけれど……。それを一時に思い出させたんだ。彼等はそれを恐れていたから、拒絶反応を示した。思っていた通り……」
「お前……そんな事出来るのか?」霊さえ視えない紘はやっかみ半分だった。「大したもんだな……!」
「出来る。けれどやりたくはない」柘羅は、思いがけず傷付いた様子を見せて俯いた。
紘は悪い事をした様で、決まり悪かった。落ち着かなげに身動(みじろ)ぎし、柘羅から僅かに視線を逸らす。
「けれど、君の様に喧嘩が強い訳ではないから……ああでもしなければ自分の身一つ守れないんだよ」
それも、そうだな――紘は納得した。柘羅の華奢な身体を見ると、多分喧嘩などとは縁の無い生活を送って来たのだろうと思われる。それどころか、力仕事とも。こんな奴が身を守るには、確かにああいった異常とも言える力が必要だろう。
しかしそれなら尚更、どういう奴なのだろう。あんな力を持ち、そしてその力を使いたがってはいない――なのに、こんな所に来た。此処では力を使う破目になる可能性が格段に高くなるのは解り切っている筈なのに。
大体どうしてこんな所に来たのだ? 一体どんな用があって?
今度こそ本気でそう問い掛けようとした時だった。
未だ甲高い、少女の声がそれを遮った。
「詞維和様みっけ!」
続いてどたばたと駆けて来る足音がしたが、断じてそれは一人分ではなかった。それはこちらに、詰まり彼等の方に向かって来ていた。
途端に、柘羅の顔に困った様な表情が浮かんだ。あのチンピラどもに絡まれそうになった時でさえ動じなかった彼がだ。
『柘羅』が諱だとすれば――と紘は考えた――世間一般に使用される名前がある筈だ。それは未だ聞いていない。とすれば、柘羅の名が『詞維和』であってもおかしくはない。
しかし、彼を様付けで呼び、そして彼を困らせる事の出来る少女というのはどんな娘なのだろう、と思い紘は足音のする方を振り返った。
途端に、彼は目を丸くした。
足音が一人でないのは解っていた。しかし、真逆これ程の大人数とは思わなかった。どう見積もっても、十人は超えていた。お迎えにしては随分だ。
その先頭に、未だ十五、六歳と思われる少女が居た。彼女が声の主だろう。後は皆、屈強な男性ばかりだから、間違いない。
「まーったくもう……!」彼女は柘羅の傍に辿り着くなり、大きく息をついた。「詞維和様ってば! 此処がどんな所か解っておいでの癖に態々手間を掛けさせてくれるんですから!」
「琳璃(りんり)……」柘羅――礼儀としては詞維和の方を呼ぶべきだが、彼が先ずそう名乗ったのだからこれで通してもいいだろう――の困惑の表情は更に深まった。「済まなかった。しかし解っているだろう? 私が此処へ来なければならなかった理由は……」
「ええ、ええ。詞維和様曰く、社会勉強の為でしたっけ? よく解ってるわ」様付けする割にはぞんざいに、そして親しげに、琳璃と呼ばれた少女は言葉を続けた。「詞維和様が此処がどういう所なのか御存知なのと同じ位にね。けどせめて、私か瓏琳(ろうりん)を連れて来る位の用心はして頂きたいの。良くって?」
「解った……」溜め息混じりに、柘羅は答えた。
「本当に解ってるんでしょうね?」琳璃は疑わしげに目を眇めた。「いつもそんな事言う割には解ってないんだから」
紘は他人の事ながらその言い方にムカッときた。過去の事をいつ迄も持ち出して相手を決め付けるというのは人間の悪い癖の一つだ。それに柘羅は解ったと言っているのだ。それでいいではないか。
「ところで……」不意に、琳璃が彼を振り返った。
彼女の態度に反発を感じていた為か、紘は真っ向からその視線を受け止めた。しかし、こんな時でなければ、余り正面から対峙したい相手ではないとも思う。眼の力が強いのだ。やや吊り気味の、綺麗な目ではあるのだが、何処か険しい。柘羅同様、いい身形をしてはいるが、只の金持ちの令嬢ではないのかも知れない。
「この方は?」彼女は柘羅に訊いた。紘を軽視している様子ではないが胡散臭げな表情を隠そうともしていない。
「不埒な者達に絡まれた所を助けて貰ったのだ」
そうだったか?――と紘は柘羅の答えに小首を傾げる。確かに手は出した。しかし、彼等が逃げて行ったのは主に柘羅の力による所であった様に思われる。
「ああ、そう言えば、さっき慌てて逃げて行く連中と擦れ違ったわ」琳璃が思い出した様に言う。「多分あの三人がそうだったのね。何だ、それならとっ捕まえてやればよかったわ」悔しげに口を尖らせる。
「そなたに捕まらなかったとは……奴等にとっては幸運であったな」柘羅が珍しく、冗談めかして笑う。
「どういう意味よ」琳璃は両の手を組み合わせ、関節を鳴らした。「こんな所に一人で出て来てもいい様に……鍛えて差し上げてもいいんですのよ?」
「止めて置け。お前が手を出すと碌な事にならん」彼女の後ろの集団の一人が進み出て言った。「大体お前に鍛えさせたりすれば詞維和はこんな所どころか何処にも出歩けない身になり兼ねない」
様を付けなかったな――紘は彼等の言葉を逐一検討して、状況を把握しようと努めていた――余程親しいって事か? あの琳璃って娘よりも?
「瓏琳! 余計な事だけは言いに出て来るんだから!」琳璃が彼を振り返って怒鳴った。
どうやら彼が先程名前の出た『瓏琳』らしい。こんな所に来るにはせめて連れて来るべき相手。それだけ、腕が立つと言うのだろうか?
―つづく―
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Re:こんばんわー
OKです^^
しかし何か中途半端な所で切ったかも(笑)
一つの記事が余り長くなるのも読む方にきついし、長編も難しい所ですね~。
しかし何か中途半端な所で切ったかも(笑)
一つの記事が余り長くなるのも読む方にきついし、長編も難しい所ですね~。
登場人物、続々♪
増えていきますねーさてさて…続きが気になります♪
巽さん
携帯からだと、Newentoriの青く反転する部分が、【テンプレいじり】と【『神国奇譚』 五】の文章全部が一括で反転しちゃうよ?
文章中で反転をポチすると、テンプレ~の方に行っちゃうけど、これは?
巽さん
携帯からだと、Newentoriの青く反転する部分が、【テンプレいじり】と【『神国奇譚』 五】の文章全部が一括で反転しちゃうよ?
文章中で反転をポチすると、テンプレ~の方に行っちゃうけど、これは?
Re:登場人物、続々♪
はにゃ? 私のではタイトルがそれぞれ反転するんだけど……???
改行も入ってるしなー。
???原因不明。またちょっと見てみますね。
追記:いじってみた。これでも変だったらまた言って下さい。
改行も入ってるしなー。
???原因不明。またちょっと見てみますね。
追記:いじってみた。これでも変だったらまた言って下さい。
治りましたー
携帯によるのかな?vodafoneの私の奴は普通に反転するけど、父の新しめのvodafoneは全然反転しないしね。
ああ!!vodafoneだからかな??
ともあれ、私のは大丈夫になりました!
機種によるんだね。
ゴメンありがとう(^^)
ああ!!vodafoneだからかな??
ともあれ、私のは大丈夫になりました!
機種によるんだね。
ゴメンありがとう(^^)
Re:治りましたー
直りましたかー^^
機種にもよるのかなぁ?
HTML+独自構文だからなぁ。これ以上はよく解らない(笑)
機種にもよるのかなぁ?
HTML+独自構文だからなぁ。これ以上はよく解らない(笑)
Re:先頭ってなに?
一番前だよ。
今日で一箇月なのに未だそんな事を訊くか、このウサギ(笑)
今日で一箇月なのに未だそんな事を訊くか、このウサギ(笑)
ん!複雑になってきたかな?
ふむふむ!いよいよ動き出しましたねぇ~!
瓏琳さんはマタマタなにやら一癖ありそうな?
紘さんは、ひょっとして、柘羅さん宅へ招かれたりするのかな?
ん~~ますます楽しみになってきた♪
瓏琳さんはマタマタなにやら一癖ありそうな?
紘さんは、ひょっとして、柘羅さん宅へ招かれたりするのかな?
ん~~ますます楽しみになってきた♪
Re:ん!複雑になってきたかな?
登場人物が増えて参りました(^^)
ふふふ、どうなるんでしょうねぇ~?
と言いつつ、更新更新〆(。。)゜。
ふふふ、どうなるんでしょうねぇ~?
と言いつつ、更新更新〆(。。)゜。