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「お前、秘密主義者か? 何だってそう人目を気にするんだ?」
「知られれば……僕はもう何処にも出られなくなる」誇張とも思われない表情で柘羅は呟く様に言った。
「家出する気か?」無事に旅に出たとしても、帰れば当然同じ処置が待っている筈だ。だとすれば彼が帰らない心算でいる事も考えられる。
「いいや、帰るよ」柘羅は紘の考えに気付いたのか苦笑して言う。「旅が無事に終わってやるべき事が済めば、僕はこの邸に帰る」
「けどそれじゃあ……」
「大丈夫だよ。その時にはもう僕を閉じ込めて置く理由なんて無くなるから」柘羅は意味不明の笑みを浮かべた。「只、伯父に見捨てられるだけだ」それは全く大した事ではない様な口振りだった。
まぁ、その伯父とやらに見捨てられたとしても、それ程困る様には思えないけどな――紘は邸の豪勢な造りをそれとなく見回しながら些か僻みっぽく考えた。十六、七と思われる彼が職を持っているかどうかは判らないが――多分持っていないだろう。必要が無さそうだから――この分では一生食べていける程の金がありそうだ。それが全て彼の名義であれば煩い伯父など居ない方がいい。
しかしどういう事なのだろう? 旅から帰った彼には閉じ込める必要が無いとは。それ以前なら彼を此処から出られなくする程の措置を取り兼ねないと言うのに?
あるいは柘羅は、彼が伯父の保護を必要としなくなる歳になる迄、此処から出ている心算なのかも知れない、だとすれば今なら未成年者として伯父に閉じ込められてもしようがないが、帰って来る頃には彼の自由に出来る事になる。幾ら過保護な伯父だとしても成年に達した甥の行動に迄、口を差し挟む事は出来ないだろう。したとしても強制力は無いのだし。
彼の考えに気付いたのか、柘羅が苦笑しながら口を開いた。
「歳は関係ないんだ。今、僕は十六だけど、伯父は僕が例え今年五十六になる伯父より年上――あり得ない例えだけど――だったとしても、僕を此処から出さない心算なんだ」
「は?」流石に紘は眉を顰めた。過保護とか何とかいう次元の話ではないらしい。一体その伯父とやらは柘羅を閉じ込めて何の得があるのだろう?
ひょっとして例の力の所為かも知れない――紘はその可能性に思い至った。幾らこの霊が視えて当たり前、という国でも柘羅の様な者は特殊だ。伯父がその力を利用しようとして彼を繋ぎ止めて置こうとしているのか、それとも彼が勝手にその力を無謀な方向に使用するのを恐れての事なのかは不明だが、どうやらこの件には彼の力が絡んでいると思われる。そうでなければそこ迄して甥っ子を捕まえて置く必要が無い。
それとも金か?――その可能性も一応は考えられる。もしその伯父が柘羅の財産を当てにしていてその為に彼を縛り付けようとしているのなら。しかしそれにしては此処から出さないというのも妙な話だ。機嫌を取る為に却って彼が行きたがる所へ連れて行く、などと言うのなら話は解るのだが。これでは彼に嫌われて、援助も得られなくなる。それとも財産管理は既に全権伯父に任せられているのだろうか? だが、柘羅は歳には関係ないと言ったのだ。今現在の年齢なら伯父に全権委任しても不思議ではないし、誰からも不審がられる事は無いだろうが、彼が成年に達すれば伯父もそうそう口出しは出来ない筈だ。
わ、解らん――紘は内心唸った。この家の内情が全く解らない。
そもそもこの家は一体何を生業としているのだろう。どうやってこれだけの邸を構えたのか、紘には全く想像もつかなかった。余程ヤバイ仕事でもしてんのか? と冗談半分に柘羅に尋ねてみる。
「まぁ、そう言えなくもないかな?」柘羅はあっさりと言って小首を傾げた。
おいおい――どうも雲行きが怪しい。
「犯罪には関係していないから大丈夫だよ」紘の表情に気付いたのか、苦笑しながら柘羅は言った。「それとも犯罪にはならない、と言った方が正確かな」
「え?」紘は意味を掴み兼ねて訊き返した。
「法律ってね、結構便利なものだよ」柘羅は不意に捉え所のない笑みを浮かべて言葉を続けた。「その法にある程度の正当性が認められれば人を殺す事だって許されるんだ。例えばこの国だって軍を持っているし、衛視は犯罪者を殺める権限を与えられている。そして誰が犯罪者かは……法が、即ち法を作る者が決めるんだ」
国の体制に異を唱えるだけで犯罪者。そんな国がある事を紘は思い出した。この国では未だそれ程の管理社会ではないものの、街灯でがなり立てている者達の声が何処迄届いているかは、かなり疑問だった。
しかし柘羅は何だってこんな事を言い出したのだろう。紘は更に訳が解らなくなった。これでは丸でこの家の者がその法を作っている様に聞こえる。彼等が法を作っているから彼等自身を犯罪者の立場に置く事はないのだ、と。
だが、この国の法を定めるのは神帝を頂点とした十五人の長老達と一千年近い昔の建国当時から決まっている。
尤も神帝自体の権限はその時その時で変化している。強い発言力を持つ者もあれば、長老達にいい様に操られる者も居たと聞く。現在の神帝は今迄の中では最も力を持っているという話だ。
真逆その十五人の長老の誰かが彼の身内なのだろうか――紘はその可能性も検討した。真逆、幾ら何でも神帝本人の身内という事はないだろう。そんな人間ならそれこそ一人であんな所に出られる訳がない。長老達の身内にした所で先ず出られないだろう。いや、そもそもあんな所を歩こうなどとは夢にも思わないだろう。彼等はあそこを避けて、目を瞑っているのだから。
だがこいつは――と紘は一抹の不安を覚えた――どうも普通の感覚をしていない。
それに現に此処から出るのに苦労したとも言っていたし、ひょっとするとひょっとするかも知れない。
何だか解らないがとんでもない事に巻き込まれ掛けている。いや、既に巻き込まれているのかも知れない。
その元凶の顔を、紘はひたと見詰めた。
そして先程の彼の質問の答えが未だ得られていない事に改めて気付いた。
「おい、誰にも言わないから何処に行くのか位教えてくれよ」彼は譲歩を申し出た。そうしなければ柘羅からは質問の答えが引き出せそうにない。
柘羅は一つ頷くと、話し出した。
目的地は『幽鬼の塔』だ、と。
―つづく―
「知られれば……僕はもう何処にも出られなくなる」誇張とも思われない表情で柘羅は呟く様に言った。
「家出する気か?」無事に旅に出たとしても、帰れば当然同じ処置が待っている筈だ。だとすれば彼が帰らない心算でいる事も考えられる。
「いいや、帰るよ」柘羅は紘の考えに気付いたのか苦笑して言う。「旅が無事に終わってやるべき事が済めば、僕はこの邸に帰る」
「けどそれじゃあ……」
「大丈夫だよ。その時にはもう僕を閉じ込めて置く理由なんて無くなるから」柘羅は意味不明の笑みを浮かべた。「只、伯父に見捨てられるだけだ」それは全く大した事ではない様な口振りだった。
まぁ、その伯父とやらに見捨てられたとしても、それ程困る様には思えないけどな――紘は邸の豪勢な造りをそれとなく見回しながら些か僻みっぽく考えた。十六、七と思われる彼が職を持っているかどうかは判らないが――多分持っていないだろう。必要が無さそうだから――この分では一生食べていける程の金がありそうだ。それが全て彼の名義であれば煩い伯父など居ない方がいい。
しかしどういう事なのだろう? 旅から帰った彼には閉じ込める必要が無いとは。それ以前なら彼を此処から出られなくする程の措置を取り兼ねないと言うのに?
あるいは柘羅は、彼が伯父の保護を必要としなくなる歳になる迄、此処から出ている心算なのかも知れない、だとすれば今なら未成年者として伯父に閉じ込められてもしようがないが、帰って来る頃には彼の自由に出来る事になる。幾ら過保護な伯父だとしても成年に達した甥の行動に迄、口を差し挟む事は出来ないだろう。したとしても強制力は無いのだし。
彼の考えに気付いたのか、柘羅が苦笑しながら口を開いた。
「歳は関係ないんだ。今、僕は十六だけど、伯父は僕が例え今年五十六になる伯父より年上――あり得ない例えだけど――だったとしても、僕を此処から出さない心算なんだ」
「は?」流石に紘は眉を顰めた。過保護とか何とかいう次元の話ではないらしい。一体その伯父とやらは柘羅を閉じ込めて何の得があるのだろう?
ひょっとして例の力の所為かも知れない――紘はその可能性に思い至った。幾らこの霊が視えて当たり前、という国でも柘羅の様な者は特殊だ。伯父がその力を利用しようとして彼を繋ぎ止めて置こうとしているのか、それとも彼が勝手にその力を無謀な方向に使用するのを恐れての事なのかは不明だが、どうやらこの件には彼の力が絡んでいると思われる。そうでなければそこ迄して甥っ子を捕まえて置く必要が無い。
それとも金か?――その可能性も一応は考えられる。もしその伯父が柘羅の財産を当てにしていてその為に彼を縛り付けようとしているのなら。しかしそれにしては此処から出さないというのも妙な話だ。機嫌を取る為に却って彼が行きたがる所へ連れて行く、などと言うのなら話は解るのだが。これでは彼に嫌われて、援助も得られなくなる。それとも財産管理は既に全権伯父に任せられているのだろうか? だが、柘羅は歳には関係ないと言ったのだ。今現在の年齢なら伯父に全権委任しても不思議ではないし、誰からも不審がられる事は無いだろうが、彼が成年に達すれば伯父もそうそう口出しは出来ない筈だ。
わ、解らん――紘は内心唸った。この家の内情が全く解らない。
そもそもこの家は一体何を生業としているのだろう。どうやってこれだけの邸を構えたのか、紘には全く想像もつかなかった。余程ヤバイ仕事でもしてんのか? と冗談半分に柘羅に尋ねてみる。
「まぁ、そう言えなくもないかな?」柘羅はあっさりと言って小首を傾げた。
おいおい――どうも雲行きが怪しい。
「犯罪には関係していないから大丈夫だよ」紘の表情に気付いたのか、苦笑しながら柘羅は言った。「それとも犯罪にはならない、と言った方が正確かな」
「え?」紘は意味を掴み兼ねて訊き返した。
「法律ってね、結構便利なものだよ」柘羅は不意に捉え所のない笑みを浮かべて言葉を続けた。「その法にある程度の正当性が認められれば人を殺す事だって許されるんだ。例えばこの国だって軍を持っているし、衛視は犯罪者を殺める権限を与えられている。そして誰が犯罪者かは……法が、即ち法を作る者が決めるんだ」
国の体制に異を唱えるだけで犯罪者。そんな国がある事を紘は思い出した。この国では未だそれ程の管理社会ではないものの、街灯でがなり立てている者達の声が何処迄届いているかは、かなり疑問だった。
しかし柘羅は何だってこんな事を言い出したのだろう。紘は更に訳が解らなくなった。これでは丸でこの家の者がその法を作っている様に聞こえる。彼等が法を作っているから彼等自身を犯罪者の立場に置く事はないのだ、と。
だが、この国の法を定めるのは神帝を頂点とした十五人の長老達と一千年近い昔の建国当時から決まっている。
尤も神帝自体の権限はその時その時で変化している。強い発言力を持つ者もあれば、長老達にいい様に操られる者も居たと聞く。現在の神帝は今迄の中では最も力を持っているという話だ。
真逆その十五人の長老の誰かが彼の身内なのだろうか――紘はその可能性も検討した。真逆、幾ら何でも神帝本人の身内という事はないだろう。そんな人間ならそれこそ一人であんな所に出られる訳がない。長老達の身内にした所で先ず出られないだろう。いや、そもそもあんな所を歩こうなどとは夢にも思わないだろう。彼等はあそこを避けて、目を瞑っているのだから。
だがこいつは――と紘は一抹の不安を覚えた――どうも普通の感覚をしていない。
それに現に此処から出るのに苦労したとも言っていたし、ひょっとするとひょっとするかも知れない。
何だか解らないがとんでもない事に巻き込まれ掛けている。いや、既に巻き込まれているのかも知れない。
その元凶の顔を、紘はひたと見詰めた。
そして先程の彼の質問の答えが未だ得られていない事に改めて気付いた。
「おい、誰にも言わないから何処に行くのか位教えてくれよ」彼は譲歩を申し出た。そうしなければ柘羅からは質問の答えが引き出せそうにない。
柘羅は一つ頷くと、話し出した。
目的地は『幽鬼の塔』だ、と。
―つづく―
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この記事にコメントする
幽鬼
という事は、茶色い犬とか黒いデカイ犬が、いっぱいいる塔ですか?←そんな訳ないやろ!(笑)
幽鬼だらけじゃ普通の人間にはキツイから、選ばれた訳かー
ものすごーく恐いのがとりつかないように、紘は何かとりつかれていた方が良いんじゃないかな?
次回は旅立ち?
幽鬼だらけじゃ普通の人間にはキツイから、選ばれた訳かー
ものすごーく恐いのがとりつかないように、紘は何かとりつかれていた方が良いんじゃないかな?
次回は旅立ち?
Re:幽鬼
ユウキはダウンした……違う^^;
まぁ、視える人は普通近付きかないですからねぇ。
この話、かなり長いです。然も展開遅いです(先に言い訳←おい)
まぁ、視える人は普通近付きかないですからねぇ。
この話、かなり長いです。然も展開遅いです(先に言い訳←おい)
Re:こんばんわ
紘、慣らされてきてます(笑)
幽鬼の塔……いつ辿り着くやら(←おい)
幽鬼の塔……いつ辿り着くやら(←おい)
こんにちは
(゜▼゜*)ウヒヒヒ♪一気読みしちゃった♪
堪能できたぁ~!
幽鬼の塔!何やらワクワクしますねぇ!
三人の旅は、さぞかし波乱万丈なんでしょうねぇ、これからいろいろと登場してくるのかな?
妖怪みたいなのも出てくるのかな?
o(^ー^)oワクワク♪
堪能できたぁ~!
幽鬼の塔!何やらワクワクしますねぇ!
三人の旅は、さぞかし波乱万丈なんでしょうねぇ、これからいろいろと登場してくるのかな?
妖怪みたいなのも出てくるのかな?
o(^ー^)oワクワク♪
Re:こんにちは
どうなります事やら(^^;)
気長にお付き合い下さいませ(←おい)
気長にお付き合い下さいませ(←おい)
Re:きのう巽と、財産
何の措置だ、何の(--;)
因みに財産と言える様な物は無いぞ(笑)
因みに財産と言える様な物は無いぞ(笑)