×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
しかし、兎に角此処を出ない事には目的も果たせないし、帰っても来られない。紘としてもこの儘此処に居着きたくはない。如何に厚遇されてはいても、此処では思う様に動けない、終始見張られているのでは落ち着けもしない。出来ればさっさと事を終えて出て行きたいものだ。
そう思っていると――。
「今夜……出ようか」不意に、柘羅が言った。
「え……?」紘、瓏琳の両名共、一瞬ぽかんとした。
「今夜って、お前なぁ……!」紘は思わず怒鳴る。「幾ら何でもそんないきなり……短絡的にも程があるぞ?」
「準備は概ね出来ている。悟られない為にも早い方がいいのだろう?」
「それはそうだが、心の準備ってもんがあるだろ?」今度は瓏琳。
「出る事は前々から言っていた。覚悟はしていた筈だよ」柘羅は珍しく強引に言い張った。
「それは……」瓏琳は言葉に詰まり、紘に視線を投げた。選手交代といった所か。
しかし紘は黙っていた。瓏琳が慌てた様な目で彼を見ても、只も黙考しているだけだ。
確かに正論だ――と彼は思っていた。柘羅がこの邸を出る事は前々から言っていたのだし、瓏琳や紘がそれに付いて行く事も解っていた。それなら今更慌てる事もない筈だ。それともこの儘この状態をいつ迄も続ける気でいたのか? 行かなければと口では言いつつ、厄介事に直面する時が来ないとでも思っていたのか? だとすれば怠け者か臆病者かのどちらか、あるいはその両方だ。それならそもそも何も企てない方がマシだ。
しかし彼等はもう企ててしまったのだ。それならやってしまうしかない。
「解った」暫し後、紘は口を開いた。「今夜出立だ」
三日月が昇った。
生憎の雲に隠され、他の星々は殆ど視認出来ない。しかし月だけでも、この街では灯としては充分だった。それ以外の灯が、夜中でも明々と点いているからだ。
「闇に紛れるってのはちょっと無理かもな」邸の塀の上から外を見回しながら紘は呟いた。考えてみれば彼が此処に来て外を見るのは、これが初めてだった。しかし今夜の計画が巧く運べば、これから暫くはこの光景を見る事は無いだろう。そしてもし失敗すれば……もう二度と無いかも知れない。
「何、灯があれば影も出来る。それにこれだけ灯が点いてるって事はそれだけ人が表に出てるって事だぜ? それなら却って紛れ易いさ」塀に飛び上がって彼に並んだのは瓏琳だった。彼は直ぐに地上を振り返り、そこに居る人物に手を伸ばす。
彼の手を頼りに上がって来たのは、無論、柘羅だった。
彼等の足元、塀の下には数人の男達が倒れていた。ある者は首筋を打ち据えられ、ある者は腹を抱えた儘の姿勢で失神し、ある者は無傷ながら頭を抱え、苦悶の表情の儘、気を失っていた。
「お前、実は護衛要らないんじゃないか?」紘は柘羅を振り返って言った。彼は例の術で護衛達の精神を掻き回し、瓏琳と共にあっさり彼等を片付けたのだ。
「そんな事無いよ……」柘羅は僅かに目を逸らした。
「……もしかしてお前、自分の力、嫌ってる?」その様子に、紘は訊いた。前々から気付いていた事だが、この力の事を話す時、柘羅は直ぐに視線を外す。少なくとも積極的に話す事は無い。この件に触れられるのを嫌がっている様なのだ。
「……」柘羅は黙った儘ながら、僅かに頷いた。
何で?――と訊きたかったが、紘は差し控えた。どうも身内の話とこの力の話は柘羅にとっては禁忌であるらしい、と。
まぁ、一緒に旅を続ける内に彼から話してくれるかも知れないし、その内何かの事で知れるかも知れない。色々推理しながら旅するのも楽しいかもな。どの途、旅の目的地に着けば疑問も全て解消される――紘はそんな気がしていた。
―つづく―
そう思っていると――。
「今夜……出ようか」不意に、柘羅が言った。
「え……?」紘、瓏琳の両名共、一瞬ぽかんとした。
「今夜って、お前なぁ……!」紘は思わず怒鳴る。「幾ら何でもそんないきなり……短絡的にも程があるぞ?」
「準備は概ね出来ている。悟られない為にも早い方がいいのだろう?」
「それはそうだが、心の準備ってもんがあるだろ?」今度は瓏琳。
「出る事は前々から言っていた。覚悟はしていた筈だよ」柘羅は珍しく強引に言い張った。
「それは……」瓏琳は言葉に詰まり、紘に視線を投げた。選手交代といった所か。
しかし紘は黙っていた。瓏琳が慌てた様な目で彼を見ても、只も黙考しているだけだ。
確かに正論だ――と彼は思っていた。柘羅がこの邸を出る事は前々から言っていたのだし、瓏琳や紘がそれに付いて行く事も解っていた。それなら今更慌てる事もない筈だ。それともこの儘この状態をいつ迄も続ける気でいたのか? 行かなければと口では言いつつ、厄介事に直面する時が来ないとでも思っていたのか? だとすれば怠け者か臆病者かのどちらか、あるいはその両方だ。それならそもそも何も企てない方がマシだ。
しかし彼等はもう企ててしまったのだ。それならやってしまうしかない。
「解った」暫し後、紘は口を開いた。「今夜出立だ」
三日月が昇った。
生憎の雲に隠され、他の星々は殆ど視認出来ない。しかし月だけでも、この街では灯としては充分だった。それ以外の灯が、夜中でも明々と点いているからだ。
「闇に紛れるってのはちょっと無理かもな」邸の塀の上から外を見回しながら紘は呟いた。考えてみれば彼が此処に来て外を見るのは、これが初めてだった。しかし今夜の計画が巧く運べば、これから暫くはこの光景を見る事は無いだろう。そしてもし失敗すれば……もう二度と無いかも知れない。
「何、灯があれば影も出来る。それにこれだけ灯が点いてるって事はそれだけ人が表に出てるって事だぜ? それなら却って紛れ易いさ」塀に飛び上がって彼に並んだのは瓏琳だった。彼は直ぐに地上を振り返り、そこに居る人物に手を伸ばす。
彼の手を頼りに上がって来たのは、無論、柘羅だった。
彼等の足元、塀の下には数人の男達が倒れていた。ある者は首筋を打ち据えられ、ある者は腹を抱えた儘の姿勢で失神し、ある者は無傷ながら頭を抱え、苦悶の表情の儘、気を失っていた。
「お前、実は護衛要らないんじゃないか?」紘は柘羅を振り返って言った。彼は例の術で護衛達の精神を掻き回し、瓏琳と共にあっさり彼等を片付けたのだ。
「そんな事無いよ……」柘羅は僅かに目を逸らした。
「……もしかしてお前、自分の力、嫌ってる?」その様子に、紘は訊いた。前々から気付いていた事だが、この力の事を話す時、柘羅は直ぐに視線を外す。少なくとも積極的に話す事は無い。この件に触れられるのを嫌がっている様なのだ。
「……」柘羅は黙った儘ながら、僅かに頷いた。
何で?――と訊きたかったが、紘は差し控えた。どうも身内の話とこの力の話は柘羅にとっては禁忌であるらしい、と。
まぁ、一緒に旅を続ける内に彼から話してくれるかも知れないし、その内何かの事で知れるかも知れない。色々推理しながら旅するのも楽しいかもな。どの途、旅の目的地に着けば疑問も全て解消される――紘はそんな気がしていた。
―つづく―
PR