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〈2008,2,17設置〉長編用ブログです。文責・著作権は巽にあります。無断転載は禁止とさせて頂きます(する程のものもありませんが)
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 紘は三日三晩、柘羅が一体どういう性格の持ち主なのか、考えに考え抜いた。
 しかし、解らなかった。
 あれから紘は、何処とも知れない邸(やしき)に連れて行かれた。彼の意識が無かったのだから有無を言わさずもいい処だ。
 そして暫くして目覚めた紘に、柘羅は笑いながらあの時の真相を話して聞かせた。
 あれは無論喧嘩の際にどこか打った訳でも――大体そんな事が無かったのは紘が一番よく知っている――また、問題の霊が彼の意識を乗っ取りに掛かった訳でもなかった。
 全て、柘羅の所為だったのだ。

「悪いとは思ったんだけれどね」と前置きしながらも柘羅は言っていた。「あの時一時的に君の意識を封じさせて貰ったんだ。君の自我が強かったんで鳥渡手間取ったけれどね。それ程難しい事じゃないんだ、これは」
「何だってそんな真似を……」紘は怒るよりも先ず呆れ、そして彼がどうして此処迄して自分を繋ぎ止めようとしているのかに興味惹かれて尋ねた。「訳が解んねぇから慌てちまったじゃないか。お前が言ってた霊とやらに身体盗られたんじゃないかとか……」
「ああ、あれ? けれど本当は危なかったんだけれどね」
「どういう意味だよ?」
「本当は君みたいに力の強い霊に取り憑かれている人にはああいう術を掛けてはいけないんだ。それに乗じて霊が君の意識を封じてしまい、その儘盗ってしまう事もあり得るから」
「おい……!」紘は思わず大声で怒鳴る。「それを知っていながら術掛けたのかよ! お前は!」
「大丈夫。奴は祓った」柘羅は全く悪びれもせずに言った。「もうどこかに行っちゃったよ。この辺には居ない」
「……」紘は思わず脱力し、彼が寝かされていた、これ迄見た事も無い程精緻な細工の施された寝台の上で、更に見た事も無い程綺麗な掛け布団に包まれた膝に突っ伏した。
 こいつは案外狸なんじゃないかと思う。いや、ほっそりしているから狐かも知れない。
 兎に角化かされた気分だ。
「ごめん。けれどこうでもしないと琳璃達が煩いから……」狐狸にしては素直に、柘羅は詫びた。
「そりゃそうだろ。俺みたいな得体の知れないのを、こんな邸に連れて来るなんてな。先ず大概は反対するな」紘は琳璃達が煩い理由に思い当たって言った。流石に癪に障るが。
「それに琳璃は特に僕が他人と付き合うのを好まないから……」
「妬いてんだろ」紘は気の強そうな少女の面影を思い浮かべながら笑った。
「それだけかな……」柘羅は紘の言葉に照れもせず、本当に不審に思っている様に眉を顰めた。
「何だよ。友達なんだろ? あの娘。それにあの娘の兄貴も」只の仕え人にしては余りに親しげだったではないか。
「瓏琳は親友だよ。けれど……琳璃はよく解らない」柘羅の言い方は本当に彼女が解らず困惑している様だった。
 だから、紘もそれ以上その事について追求するのは止めた。代わりに、もっと重大な疑問を追及し始める。

「で、どういう事なんだ? そこ迄して俺を此処へ連れて来る理由がどこら辺にあるって言うんだ?」
「別に此処でなくてもよかった。君と話が出来れば……却って此処でない方がよかった位だよ。余計な気を遣う必要が無いから」柘羅は彼の背後の扉を振り返った。
「此処じゃ誰かが、お前や俺を見張ってるとでも?」紘は笑った。妙な所、神経質じゃないか、と。
「僕が君と会った街に出掛けるのに、どれだけ苦労したか解るかい?」不意に、柘羅は訊いた。溜め息混じりだ。
「……そもそも、此処、誰の邸なんだ?」紘は先ずそれを訊くべきだったと思い当たり、尋ねた。大体場所からして解らないのだ。今迄訊く事を思い付かなかったのも、柘羅の笑顔に毒気を抜かれたが為だ。
「天地詞維和」柘羅は何故かその名を口にするのが嫌そうだった。
「詞維和……って、お前じゃないのか? 確かあの二人がそう呼んでたじゃないか」紘は目を丸くする。「そう言えば琳璃って娘なんか、詞維和様、なんて呼んでたな。一体どういう御身分なんだ? お前」
「その呼ばれ方は嫌いだ」思いの外冷たい、冷め切った声を、柘羅は洩らした。そして扉の向こうを憚る様な小声で、再び、名乗った。「僕は柘羅。それでいい」
「けど、諱を人前で呼ぶ訳には行かないだろ?」
「瓏琳と同じ事を言うんだね」
「常識的な事を言ってるだけだ」相手の非常識に対して軽い皮肉を交えながらも紘は言った。「どうやらあの瓏琳とかいう奴はお前よりは常識家らしい」
「瓏琳は人前では詞維和と呼ぶ。けれど他に聞く者が無ければ柘羅と呼んでくれる」余程詞維和と呼ばれるのが嫌らしく、柘羅はそう言い張った。
「琳璃は?」
「琳璃は……琳璃には諱は教えていない」
 ほぉ、一応人を選んで諱を教えてるのか――紘は片方の眉を軽く上げる。しかし、だとすればそれ程彼女を信用していない、或いは信用していいかどうか計り兼ねているという事だろうか?
 どうも、これでなかなか色々ありそうな奴だな。

                      ―つづく―
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