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相手は面白そうに、紘を見た。三人掛かりで負ける筈がないと理解しているのだ。自分達に害が及ばない程度なら、邪魔もまた楽しみという事だろうか。
紘は利き手である右手を握り締めた。そうして戦う体勢を作りながら、頭を働かせる。男達と紘の背の高さは平均すればそれ程の差ではない。体重も平均すれば同様だ。だが、個々を見た場合、それらの差は歴然としてくる。あのひょろりとした奴は大して脅威ではないとして、後の二人は大男と言っていい体格をしていた。坊主頭などは体重では紘の三倍はありそうだ。もう一人にしても二倍はある。しかし、あのひょろりにしても侮る訳には行かない。この街でこれ迄生き延びてこられたのだ。それもこんな連中と一緒に居て。一筋縄では行かないかも知れない。
誰から片付けようか、とあらゆる場合を想定しながら紘は頭を捻った。
しかし、どう考えても、一対三で彼に有利な状況は考え付かなかった。この辺で誰かの協力を求めようなどという者は居ない。求めても無駄だからだ。よしんばそれが叶ったとしても、今度はその協力者が逆に脅威になり兼ねない。下心無しに助けてくれる者など半径三十里以内には居ないのだ。だから紘も、その辺を気の無い、それでいてこの展開を面白がっている様な表情で徘徊している者達に、助けを請おうとは思わなかった。
そして、柘羅もそうだった。
彼がこの辺りの者達の気性を知っているとも思われないが、一向に助けを求める気配は無い。それどころか紘にさえ、頼る気配も無い。
一体何を考えてるんだ?――紘は首を傾げずにはいられなかった。逃げようともしない。助けを求めるでもない。黙って金でも払う心算か? 馬鹿馬鹿しい。
金を払った処で奴等が只で帰してくれるという保証など無いのだ。更に彼等の仲間がこの三人だけでなかった場合、すなわち裏に組織でもあった場合、彼を売り飛ばそうとする可能性もある。法の整備されたこの国では買い手はなかなか見付かりそうにないが、他の国の中には未だに人買いが横行している所もあるのだ。それも主にこんな少年や少女を商品としている。
柘羅なら高く売れそうだ――紘は苦笑した――例え馬鹿だとしても。いや、多少は馬鹿な方がいいのだろう。
そうならなくても、彼が金を持っている様なら彼等は放そうとしなくなるだろう。彼を捕えた儘、家を訊き出し、家族から更に金を掠め取ろうとするかも知れない。彼が帰される前に、彼の家の金庫は空になるかも知れない。無論、彼の家族が彼をどれ程想っているかにもよるが。
「おい、なかなか度胸が据わってるじゃねぇかよ? え?」坊主頭が柘羅に目を向けて哂った。「逃げようともしやしねぇ。顔色一つ変えねぇじゃねえか。状況が解ってねぇんじゃねぇか?」
誰でもそう想うよな――紘は内心頷いた。
柘羅はその言葉にも全く感動を受けた様子も無く、只無表情だった。身体に力が入っている様子も無い。と言って惚けている訳でもなかった。彼等を無視しているだけだ。
それが余計に気に入らなかったのだろう。男が進み出た。真っ直ぐ、柘羅へと向かう。
防ごうとした紘の前には後の二人が割り込んだ。いずれも彼より頭一つ、高い。
「邪魔は……」一人が哂って口を開いた。
だが、その言葉を完成させたのは紘の方だった。
「……させない!」紘は叫ぶなり、握り締めた拳を痩せた腹に叩き込んだ。
男は身体を折った。意外な反撃に思われたのか、顔が驚愕に歪んでいる。
その動揺が醒めない内に、紘は彼の脚を自分の脚で払った。
相手は手も無く転ぶ。転びながら相方に援護を求める様に、細い手を差し出す。
その腕を紘は捉え、捻り上げた。男は痛みに呻く。
だが残る男が紘を捕まえようとした為に、折角捕えた腕を放さざるを得なかった。慌てて身を翻し、掛かって来た男の背後に回る。
と――。
「うわあぁぁぁっ!?」いきなり、大声が響いた。
柘羅に向かって行った坊主頭の声だった。
そうと気付いた紘と男達の動きが停止した。振り返った彼等は一様に目を丸くする。
何でもない表情で立っている柘羅の前に、あの大男が蹲っていたのだ。
大きな手で禿頭を挟み込み、怯えた様にへたり込んでいる。大きな子供の様に。
何をしたんだ?――紘には全く想像がつかなかった。柘羅が何かの動きを見せた気配は無かった。幾ら争っている最中だとは言え、派手な動きがあれば気付く筈だ。況してや紘は常にそちらを気にしていたのだから。
不意に、もう一人、倒れた。
痩せた男に手を貸そうとしていた男だ。同じ様に蹲って頭を抱え込んでいる。
「ど、どうしたってんだよ……?」残る一人が心細げに言った。「何したんだ……? てめぇ!」険しい、それでいて怯えを含んだ目で紘を振り返る。
俺が訊きたい――とんだ濡れ衣を着せられた紘は肩を竦めた。大体お前さん達と取っ組み合っていた俺に何が出来たって言うんだ? 阿呆か。
しかし、柘羅はそれ以上に何もしていなかった様に――そして何も出来なかった様に――見えたのだった。だからこそ、彼は紘が何かをしでかしたのだと判じたのだ。そうであって欲しかったのかも知れない。
蹲った二人の男は丸で状況をすっかり忘れた様にいきなり駆け出した。逃げ出したのだ。
紘は残された男共々、呆気に取られた。
平然としているのは柘羅だけ――。
彼がこの展開に驚いていない事も、途惑っていない事も、明々白々だった。全くの無表情で、彼等を眺めているだけなのだから。
その無表情が、紘は気になった。丸で何かに集中する為に、感覚も何もかも失くした様な感じだった。その為に、本当に表すべき感情も失くした様に。
やはりこいつが何かしている――と紘は判断した。
しかし、男はそんな事には気が回らないのか、只、気味悪げに二人を見比べて、次いで仲間達の逃げ去った方角を目で追った。そしてその脚も、実際にその後を追い出した。捨て台詞を吐いて行ったが、先ず誰でもが想い付く内容で、特筆するべき程のものではなかった。
―つづく―
紘は利き手である右手を握り締めた。そうして戦う体勢を作りながら、頭を働かせる。男達と紘の背の高さは平均すればそれ程の差ではない。体重も平均すれば同様だ。だが、個々を見た場合、それらの差は歴然としてくる。あのひょろりとした奴は大して脅威ではないとして、後の二人は大男と言っていい体格をしていた。坊主頭などは体重では紘の三倍はありそうだ。もう一人にしても二倍はある。しかし、あのひょろりにしても侮る訳には行かない。この街でこれ迄生き延びてこられたのだ。それもこんな連中と一緒に居て。一筋縄では行かないかも知れない。
誰から片付けようか、とあらゆる場合を想定しながら紘は頭を捻った。
しかし、どう考えても、一対三で彼に有利な状況は考え付かなかった。この辺で誰かの協力を求めようなどという者は居ない。求めても無駄だからだ。よしんばそれが叶ったとしても、今度はその協力者が逆に脅威になり兼ねない。下心無しに助けてくれる者など半径三十里以内には居ないのだ。だから紘も、その辺を気の無い、それでいてこの展開を面白がっている様な表情で徘徊している者達に、助けを請おうとは思わなかった。
そして、柘羅もそうだった。
彼がこの辺りの者達の気性を知っているとも思われないが、一向に助けを求める気配は無い。それどころか紘にさえ、頼る気配も無い。
一体何を考えてるんだ?――紘は首を傾げずにはいられなかった。逃げようともしない。助けを求めるでもない。黙って金でも払う心算か? 馬鹿馬鹿しい。
金を払った処で奴等が只で帰してくれるという保証など無いのだ。更に彼等の仲間がこの三人だけでなかった場合、すなわち裏に組織でもあった場合、彼を売り飛ばそうとする可能性もある。法の整備されたこの国では買い手はなかなか見付かりそうにないが、他の国の中には未だに人買いが横行している所もあるのだ。それも主にこんな少年や少女を商品としている。
柘羅なら高く売れそうだ――紘は苦笑した――例え馬鹿だとしても。いや、多少は馬鹿な方がいいのだろう。
そうならなくても、彼が金を持っている様なら彼等は放そうとしなくなるだろう。彼を捕えた儘、家を訊き出し、家族から更に金を掠め取ろうとするかも知れない。彼が帰される前に、彼の家の金庫は空になるかも知れない。無論、彼の家族が彼をどれ程想っているかにもよるが。
「おい、なかなか度胸が据わってるじゃねぇかよ? え?」坊主頭が柘羅に目を向けて哂った。「逃げようともしやしねぇ。顔色一つ変えねぇじゃねえか。状況が解ってねぇんじゃねぇか?」
誰でもそう想うよな――紘は内心頷いた。
柘羅はその言葉にも全く感動を受けた様子も無く、只無表情だった。身体に力が入っている様子も無い。と言って惚けている訳でもなかった。彼等を無視しているだけだ。
それが余計に気に入らなかったのだろう。男が進み出た。真っ直ぐ、柘羅へと向かう。
防ごうとした紘の前には後の二人が割り込んだ。いずれも彼より頭一つ、高い。
「邪魔は……」一人が哂って口を開いた。
だが、その言葉を完成させたのは紘の方だった。
「……させない!」紘は叫ぶなり、握り締めた拳を痩せた腹に叩き込んだ。
男は身体を折った。意外な反撃に思われたのか、顔が驚愕に歪んでいる。
その動揺が醒めない内に、紘は彼の脚を自分の脚で払った。
相手は手も無く転ぶ。転びながら相方に援護を求める様に、細い手を差し出す。
その腕を紘は捉え、捻り上げた。男は痛みに呻く。
だが残る男が紘を捕まえようとした為に、折角捕えた腕を放さざるを得なかった。慌てて身を翻し、掛かって来た男の背後に回る。
と――。
「うわあぁぁぁっ!?」いきなり、大声が響いた。
柘羅に向かって行った坊主頭の声だった。
そうと気付いた紘と男達の動きが停止した。振り返った彼等は一様に目を丸くする。
何でもない表情で立っている柘羅の前に、あの大男が蹲っていたのだ。
大きな手で禿頭を挟み込み、怯えた様にへたり込んでいる。大きな子供の様に。
何をしたんだ?――紘には全く想像がつかなかった。柘羅が何かの動きを見せた気配は無かった。幾ら争っている最中だとは言え、派手な動きがあれば気付く筈だ。況してや紘は常にそちらを気にしていたのだから。
不意に、もう一人、倒れた。
痩せた男に手を貸そうとしていた男だ。同じ様に蹲って頭を抱え込んでいる。
「ど、どうしたってんだよ……?」残る一人が心細げに言った。「何したんだ……? てめぇ!」険しい、それでいて怯えを含んだ目で紘を振り返る。
俺が訊きたい――とんだ濡れ衣を着せられた紘は肩を竦めた。大体お前さん達と取っ組み合っていた俺に何が出来たって言うんだ? 阿呆か。
しかし、柘羅はそれ以上に何もしていなかった様に――そして何も出来なかった様に――見えたのだった。だからこそ、彼は紘が何かをしでかしたのだと判じたのだ。そうであって欲しかったのかも知れない。
蹲った二人の男は丸で状況をすっかり忘れた様にいきなり駆け出した。逃げ出したのだ。
紘は残された男共々、呆気に取られた。
平然としているのは柘羅だけ――。
彼がこの展開に驚いていない事も、途惑っていない事も、明々白々だった。全くの無表情で、彼等を眺めているだけなのだから。
その無表情が、紘は気になった。丸で何かに集中する為に、感覚も何もかも失くした様な感じだった。その為に、本当に表すべき感情も失くした様に。
やはりこいつが何かしている――と紘は判断した。
しかし、男はそんな事には気が回らないのか、只、気味悪げに二人を見比べて、次いで仲間達の逃げ去った方角を目で追った。そしてその脚も、実際にその後を追い出した。捨て台詞を吐いて行ったが、先ず誰でもが想い付く内容で、特筆するべき程のものではなかった。
―つづく―
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Re:謎の美少年柘羅
焦らすと言うか長くなってしまって……(^^;)
あんまり一章を長くする訳にも~と此処で切る(笑)
あんまり一章を長くする訳にも~と此処で切る(笑)
Re:月夜は、夜霧が自
何を動揺するかな、この子は(^^;)
月夜は月夜だろーが。
月夜は月夜だろーが。
Re:無題
最後迄謎だったら……笑える以前に総ブーイング来そうですが(笑)
そうならないように頑張ります(^^;)
そうならないように頑張ります(^^;)
Re:o(*^▽^*)o~ワクワク♪
超能力者と言うか、向こうの短編の奇譚シリーズと世界観は一緒(こっちが元)なので……。多少向こうと絡みが無いでもない。細い糸だけど。
Re:無題
引っ張ります(笑)
と言うか実際長いんですよ、この話(←おい)
なるべく纏めたい所……(--;)
と言うか実際長いんですよ、この話(←おい)
なるべく纏めたい所……(--;)
Re:無題
はわ。長文書くと最初の方が勝手に変換されてるのに気付かない時が……ご指摘有難うございますm(_ _)m