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〈2008,2,17設置〉長編用ブログです。文責・著作権は巽にあります。無断転載は禁止とさせて頂きます(する程のものもありませんが)
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 更に二日が経ったが、柘羅は未だ旅立つ気配を見せなかった。問うてももう直だと言うだけだ。警戒が厳しいのだ、と彼は言った。あの日、紘と逢う為に邸を出た所為で余計に琳璃が神経を尖らせているらしい。
 しかし変な話だ、と紘は思う。外敵に対して警戒するのなら兎も角、中に居る者が出て行かないようにする為に警戒するなんて。
 だが、現に警戒されている事は紘もここ数日の間に確信していた。彼は南の一角に部屋を与えられていたのだが、その窓の向こうを度々人が通って行くのだ。窓の向こうはだだっ広い竹林。然して用がある所とも思われない。なのに昼夜を問わず、他人の気配があるのだ。どうやら紘自身も見張られている様だ。
 それだけに、紘は鬱々とした日々を送っていた。外には出られない窓の外では他人がうろついている、これでは落ち着いていられる筈もない。
 だから紘は三人が揃った夕方、こう言い出した。
「強行突破でもしようぜ!」
「え……?」柘羅は目を丸くした。
「強行……って、お前……!」瓏琳でさえ一瞬茫然とした。
「どうせ家出同然なんだろ? それなら構わないじゃないか。逃げ出そうにも隙が無いってんなら、隙を作りゃいいんだ。無理矢理にでも」
 本当に幽鬼共の居る塔に迄行く気なら、それ位の事は出来る筈だ、と紘は力説した。人間相手に怖気付いていて、幽鬼共の只中に入って行く事なんか出来っこない、と。
「万一失敗しても、奴等は柘羅には危害を加えやしないだろ? 俺達はどうなるか解ったもんじゃねぇけど」
「それはそうだが……お前は此処の連中を大して知らんからなぁ……」瓏琳が眉根を寄せる。「女子供に至る迄、訓練を受けた者ばかりだぞ?」
「お前だってそうだろ?」
「俺一人でどう出来るって言うんだ? この邸には三十人以上の使用人が居るんだぞ? その連中の全てが俺と同じ様な訓練を受けていて……」
「何だよ。お前ってその三十人と同程度の腕なのか? 柘羅が信用してるって言うからもーっと腕が立つかと思ってたんだがなぁ」紘は態と瓏琳を刺激する様な事を言う。「そんなんじゃ夜盗共に狙われでもしたら三人共お陀仏だなぁ」
「お前……よっぽど、外出たいんだな……」流石に瓏琳は紘の目論見に気付いたらしい。目を眇めつつも、苦笑している。
 ちっ、ばれたか――紘は舌を出した。
 しかしこの提案はそれ程無駄ではなかったらしい。
 柘羅はいつもにも増して真剣な表情で考え込んでいたのだ。真剣で、そしてやや危険な目をしていた。
「確かに……此処でいつ迄もぼうっとしていても仕方がないな……」
「……って、真逆、おい……!」瓏琳が些か慌てる。「お前迄そんな事言い出す気か?」
「こいつが言い出すべきなんだよ」紘は態と突き放す様に言った。「何処に行くにせよ、何をするにせよ、元々はこいつが思い立った事なんだからな。それならこいつが決めなきゃならない。だろ?」違うか? と眼で柘羅に問い質す。
 柘羅は頷いた。

 そして徐(おもむろ)に地図を取り出した。三人の中心の卓に広げる。
 何処の地図だ?――それは紘には見慣れないものだった。元々学問とは縁の無い人間であり、地図など眺めた事も無かったのだが、しかし自分の周囲の地理はある程度頭の中に入っている。だが、その頭の中の地図とこの地図とには共通点が無い。という事は少なくとも彼が住んでいた街の地図ではない。
「この街の地図だよ」紘の視線に気付いたか、柘羅が言った。
「この街って……」紘は言いながらも徐々に茫然とし始める。「そう言えばこの邸が何処にあるか、未だ聞いてなかった気もするんだが……俺が住んでた街とはどの位離れた所にあるんだ?」
「えーと、五十里位はあるんじゃないかな?」
「……で、お前、あん時態々五十里も離れた街迄――それもあんな街迄――俺みたいな奴探しに来た訳?」
 こくん、と柘羅は頷いた。
「呆れた……」心底呆れた表情で紘は呻き、天井を仰いだ。「呆れまくった」
「それだけお前が必要だって事だよ」瓏琳が笑いながら言う。
「俺個人じゃなくて『霊の視えない奴』がだろ?」煽てには乗らんぞ、といった体で紘は肩を竦める。
 ひょっとしてこいつ捻くれてないか、などと瓏琳は柘羅に囁き、同意を求めている。
 柘羅はくすくす笑うだけで、断定を避けた。
 そして二人の注意を改めて地図に向けさせた。
「これがこの邸……」地図の上の方を指で指し示しながら柘羅は言った。「この街から出るにはどうしてもこっちの――」指をすっと滑らせて地図の反対の端近くの門らしい場所を示す。「この門を通らなくてはならない」
「何で。邸を出るのは兎も角、何で街に門なんか……」
「この街は堅固な壁で覆われている。ほら、この線……」柘羅は邸を含んだ街を囲む四角の線を指でなぞった。「通行可能なのはこの門だけなんだよ」
「無茶苦茶な造りじゃないか? これじゃ物も流れないだろうに」
 紘が住んでいた街は曲がりなりにも街道沿いだった。それだけに別の街からの物や金の流れがあった。無論、情報も流れる。しかし、これでは袋小路だ。此処に来る者は所謂通りすがりではなく、此処へ来る事こそが目的という訳だ。しかし何か無ければ態々遠くに迄足を運ぶ者も居ない筈だ。
 だとすればこの街には何があるのか――。
「人の流れも情報の流れも充分にあるさ」瓏琳が言った。「何せ此処はこの国の首都だからな」

                      ―つづく―
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えーっと
たっくん(柘羅)は西洋風に言うと王子様なのかな?
有る意味、クローズドサークルの首都からの脱走劇が始まるのね!!
ワクワク((o(^-^)o))
冬猫 URL 2008/06/09(Mon)00:00:10 編集
Re:えーっと
何か毎回呼び方違う(笑)
因みに柘羅の読みは「しゃら」なので……(^^;)
最初決める時に読みは決まってたんだけど「しゃ」という音でなかなかいい漢字が見付からなくて色々探しまくった思い出があります(笑)
柘植(つげ)の「柘」なんて余り「しゃ」とは読む機会は無いだろうけど、辞典にはあったので……読ませてしまえばこちらのもんじゃー! と(爆)
巽【2008/06/09 14:22】
巽が断定したの?
巽が断定したの?
BlogPetの月夜 URL 2008/06/12(Thu)08:42:17 編集
Re:巽が断定したの?
だから、何を?(^^;)
巽【2008/06/12 17:08】
(¬ー¬) ムフフフ
早く続きが読みたいから、読み逃げしまぁ~す!

<(_ _)>すんまそん!
クーピー URL 2008/07/17(Thu)14:55:37 編集
Re:(¬ー¬) ムフフフ
いえいえ、読んで下さるだけでも(^^)♪
巽【2008/07/17 22:37】
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