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〈2008,2,17設置〉長編用ブログです。文責・著作権は巽にあります。無断転載は禁止とさせて頂きます(する程のものもありませんが)
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「解った」紘は答えた。「行ってやろうじゃないか。但し、必ず三人揃って帰るって保証付きならな。いいな? それで」
 柘羅は笑顔で、大きく頷いた。
 瓏琳は安堵した様な、それでいて苦笑を含んだ笑いをその日焼けした顔に浮かべると、柘羅の隣に腰掛け、その肩を親しげに叩いた。
 そして、紘に改めて名乗った。
「海来瓏琳(みきろうりん)。諱は……」
「いいのか?」先ほどは柘羅が彼にした質問を、紘は瓏琳にした。
「いいさ。どうせ柘羅の奴はとっくに教えてるんだし。こいつがそこ迄信じてる奴なら俺も信じなきゃしようがない」瓏琳は肩を竦めた。「それに元々諱なんてものは普通の奴には話したってどうって事は無かろう? 呪術師に知られれば術を掛けられ易くなるかも知れないが,そうでない奴なら自分では術を掛けられない。それに……」彼は柘羅を見遣った。それだけで紘には彼の言いたい事が解った。「本当の術師には呪文も媒介とする為の諱も必要ない」
 あの街でならず者に術を掛けた時、柘羅は彼等の普段使用する名前すら知らなかった。それでも術は使えるのだ。多分、柘羅のあの力は生まれ付いてのものなのだろう。彼は、生まれ付いての術師だったのだ。
「で、俺の諱は、瓏琳」
「え……?」紘は一瞬呆けた。
「彼の両親は少し変わってるんだ」柘羅が説明した。「諱が諱だと知られなければ例えそれを正面切って名乗っていた所でどうって事ない筈だ! ……ってね。親戚の反対も押し切って諱をその儘呼び名にしてしまったんだ。まぁ、今の所それで問題が起きた事は無いから、彼等の主張も強ち間違いではなかったのかも知れないね」
 呆れた両親だ、と思いつつも、紘はどこかで納得していた。確かに諱はそれが諱だと知られなければ問題ない。それどころか正面切って名乗る奴など居ないと大概の人間が思っているだけに、却ってそれが諱なのだとは誰も思わないという可能性もある。例え名乗られても、別に本当の諱がある筈だ! と思ってしまう。
 紘が瓏琳に対してそう考えないのは、柘羅が説明してくれた事と、そして彼等自身の性格から瓏琳の両親の性格が推し量られる為だ。全く大胆で楽観的な両親だ。
 しかしそうるすと――紘はふと考えた――琳璃の名前もその儘諱なのだろうか?
 彼女は瓏琳の妹だ。という事は同じ両親を持っている事になる。だとすれば兄の命名に関してそんな主張を通した彼等が妹の時は別という事もないだろう。その可能性はある。
 だがまぁ、別にそんな事はどうでもいい。
 彼女はこの件には関係ない筈だから。
 柘羅はこの三人だけで行くと言った。無謀だが、未だ彼女を連れて行くと言わないだけマシかも知れない。女連れでそんな所に行けるものか。紘からすれば柘羅一人だけで充分、旅に於いてはお荷物になりそうに思われるというのに。
 もしかして、途轍もなく厄介な仕事を請け負ってしまったのでは、と紘は小さく溜め息をついた。
 だが、それでも、あの街でいつ迄生きられるかなどと考えながら生きて行くよりはマシかも知れない。あそこでは後十年生きられれば長い方だろう。多分。
 只、この旅が無事に終わるという保証もない。瓏琳は五分五分――そして自分達次第ではそれは変えられる――と言ったが、逆に言えば自分達次第では無事帰投出来る可能性を減退させる事もあり得るという事だ。
 ま、長けりゃいいってもんでもないしな――紘は最後迄燻っていた迷いを吹っ切った。

                    * * *

 同じ頃、柘羅の邸からは南。やや西よりにある広大な邸群の一つの、更にその奥の一室で、琳璃が五十代前半と思われる男性を前に畏まっていた。しかし気心の知れた相手なのか、目は薄く笑っている。
「詞維和様は到頭旅の同行者候補を見付けられた様ですわ」
「ふ……む。あの街の者なら金で動くという事も充分に考えられるし、命知らずかも知れんが……。共に行くかな?」男は首を傾げながら言った。「あいつの事だ。何処に行くか位の事は話すだろう。それを知りながら付いて行く者が居るかな?」
「難しい所ですわね。何処に行くか位訊かずに付いて来てくれる者も居ないでしょうし。何処に行くかを知れば……」また、付いて来る者はない。少なくともまともな奴なら。
「それで? その少年、調べが付いたのかね?」
「天海紘。直十八ですわ。家族は疾うに死別。身寄りは全くありません。特に親しい友人もない様ですわね。お陰で調べがなかなか捗りませんでしたわ。諱さえ解らない始末で……。仕事も対人面もその日暮らし。只、それだけに……」
「身軽という訳か」
「はい。それに、彼は一度詞維和様を街のならず者どもから庇いました。一人ででも逃げられた筈ですのに。その様な者ならあるいは詞維和様に説得される可能性もあるかと……。詞維和様もお気に入りのご様子ですしね」
「……ではそやつが詞維和と行動を共にする可能性は高いと?」
「ええ。残念ながら」
「おや、琳璃は彼が気に入らないのかね?」男は面白そうに訊いた。
「あんな街で育った者ですもの。いずれ碌でもない者でしょう。詞維和様も幾ら彼が霊の視えない者だからと言って……相手を選べばお宜しいのに」琳璃は柔らかな頬を膨らませた。
「そやつが食わせ者であるという可能性もあると?」
「おじ様の前で申し上げるのも何ですけれど、あの街はこの国の恥部ですもの。どうして潰しておしまいにならないのか不思議な位ですわ」
「あの街が無くなればああいった輩が居なくなるかね? それなら今直ぐにでも潰すのだがね」男はごく自然に言って除けた。
「ですわね。街があるから彼等が居るのではなく、彼等が居るから街がああなったのでしたわ。本末転倒はいけませんわね」琳璃は頷きながらも肩を竦めた。「ま、何にしても私の勤めは詞維和様をお守りする事……彼が詞維和様を欺く様であれば……」
「やれやれ、怖いな。琳璃は」男は薄く笑った。
「おじ様に言われるとは思いませんでしたわ」琳璃は笑いもせずに、そう言った。

                      ―つづく―
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おやぁ~?
おじさん旅に出るの知ってる!!
ひそかな行動がぁ~おじ様は何だか食わせ者なのかな?

『生まれ付いてものなのだろう。』
[の]が足りないよーん
冬猫 URL 2008/05/11(Sun)23:01:22 編集
Re:おやぁ~?
何処からバレてるんでしょうねぇ?
のー∑(・`ω´・;)
巽【2008/05/12 23:36】
巽が減退したの?
巽が減退したの?
BlogPetの月夜 URL 2008/05/14(Wed)09:47:04 編集
Re:巽が減退したの?
何が?
つくづく疑問形の多い子やね(^^;)
巽【2008/05/16 12:05】
ん?このおじ様は!
敵なのか?味方なのか?
多分・・・・遠くから成り行きを見守ってくれるような存在だと思うけど・・・・

ちと気になりますなぁ!
クーピー URL 2008/05/26(Mon)12:57:08 編集
Re:ん?このおじ様は!
おじ様的には味方の心算。
柘羅達がどうとってるかは別だけど(^^;)
巽【2008/05/26 20:34】
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