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「しっかし、殆ど家出だな」紘は瓏琳を手伝いながらも、呆れ顔で言った。
「ま、そう言って言えなくはないな」瓏琳は忙しく立ち働きながらも応じた。「家人には黙って出て行くんだからな」
「立派な家出だ」
「おいおい、家出に立派もないだろう」瓏琳は逆に、紘の言葉に呆れる。
「じゃ、保証書付きの家出。あるいは真実無二の家出」
「おいおい……自棄になってないか? お前」
「自棄にもなる! この一週間、病人扱いで下手に部屋から出る事も出来ねぇんだぜ? 毎日毎日一つの部屋の中に居てみろ! 思いっ切り自棄になるぞ!」紘は怒鳴った。「いっぺん試してみるか?」
「止めとく」瓏琳は苦笑いしながらも簡潔に答えた。「けど、しようがないさ。君を此処に置くにはそれなりの理由が無きゃならない。何しろこんな家だから客人の身元にもなかなか煩いし……。君は柘羅を助けたって事で一応理解を得てはいるけれど」
「解ってるって。だから大人しく病人してるんじゃないかよ」拵えた荷物を背負い、その重量を確かめながら紘は言った。荷物は彼の背中を殆ど覆っている。余り、大人しい病人が背負う物ではない。
「まぁまぁ、仮病ももう直治癒するよ。柘羅の奴もこっそりだけど、準備に奔走してるから」
「そう言やここ二、三日あいつの姿見てねぇな。何してるんだ?」紘はふと思い付いて尋ねた。尤も、彼はこの邸に来てから、殆ど部屋に籠もりっ切りだった。だから彼等の方から訪ねて来ない限り他人と会う事は無い。
「此処から逃げ出す計画の詰めを練ってる。それと余り普段と違う事してると怪しまれるからいつも通りにお勉強。何にしてもこの邸内の書庫に籠もってるよ」
「あいつっていつもそんな所に籠もってんの? 道理で顔色が白いと思った」
「俺も本当はもう少し表に出た方がいいとは思うんが……。何しろ琳璃が煩い。あいつが庭に出るだけでも大騒ぎなんだからな」瓏琳は呆れ顔で肩を竦めた。
「あいつ、どこか悪いのか? そこ迄表に出して貰えないなんて……」紘は心配になって訊いた。もし重い病気でも抱えているのであればこの旅の件は始めから考え直さなければならなくなる。
「いいや。身体はどこも悪くない。別に頭も悪くない。まぁ、時々馬鹿じゃないかと思う程呑気な所はあるが」
「確かに」紘は彼の見解を認めた。彼自身の見解と一致していた為だ。
「けど好い奴だよ」不意に、瓏琳は笑って言った。
「……そうらしいな」紘はそれも一応認めてやった。彼等とは未だ一週間程度の付き合いでしかない。だから疑い深い紘としてはそんな事を断言するのはいつもなら異常な事なのだが、彼等に関しては、何故か頷きたくなった。あるいは単に他人を信用してみたくなっただけかも知れないが。
そうだとしたらこいつの所為だよな――瓏琳をそれとなく見遣りながら紘は思った。こいつが余りに柘羅を信用しているから、そして柘羅もこいつを親友として信じているから、ついそれが――認めるのはかなり苦労の要る事だったが――羨ましくなったのだ。彼には一人もそんな相手が居なかったから。
しかしこんな思いをしている事は誰かに知られたくなかった。だから相手の言葉を認めつつも、捻くれた態度を取ってしまう。
「しかしこんな事すれば追っ手が掛かるんじゃないか? し――詞維和の伯父さんの手の者がさ」柘羅程ではないにしても、一応周囲の耳を警戒して紘は柘羅の一般向けの名前を用いた。
「だろうな」瓏琳は実にあっさりと認める。
「だろうなって……。拙いんじゃねぇのか? その伯父さんがどれ程の力を持ってるかは知らないが、奴にあれだけの護衛を付けられる奴だぜ? 金さえ出せばどんな奴だってあいつを連れ戻すのに手を貸すだろうし」
「紘……それってあの街の価値観で言ってるんじゃ……」
「ああ、ああ、どうせ俺は金で動く類だよ!」紘はかっとして怒鳴った。「けどな、俺なんか未だいい方だぜ? 話を聞いてから付くかどうか決める位だからな。金額だけで内容も考えずに自分を売る様な真似はしねぇ……! それに言っちゃ悪いがこんな価値観の奴なんざ、ざらに居るぜ? 金に困った事のある奴なら大抵そうさ!」暗に、金に困った事が無いであろう相手の価値観を責める。理不尽だ、と自分でも思いながら。
「……悪かった」瓏琳は素直に頭を下げた。ここで紘の機嫌を損じてはいけないと思った為でもあるかも知れないが、彼の眼は真剣だった。「そんな心算じゃなかったんだ。只、金がそれ程迄するに値するものだとは思えなくて……」
「価値はあるさ」紘は応えた。「少なくともそう思う奴にはな」
そしてそんな奴はごろごろしている。
「賞金でも懸けられれば目の色変えて追って来るぜ?」
「ああ……」瓏琳は頷いた。「確かにな。けどそれでも一応数は限定出来ると思う」
「何で?」
「あいつの伯父は事を荒立てたくないと言うか……表立って事を構えるのを望まない筈だ。追っ手を掛けるとしても追う相手の正体を知らせないんじゃないかと思える程……。表向きあいつが出て行った事さえ無かった事としようとする筈だ。無論、隠れて追っては来るだろうけれど」
「……何か……複雑な伯父さんだなぁ……」
「複雑な家系なんだよ」言って、瓏琳は肩を竦めた。
―つづく―
「ま、そう言って言えなくはないな」瓏琳は忙しく立ち働きながらも応じた。「家人には黙って出て行くんだからな」
「立派な家出だ」
「おいおい、家出に立派もないだろう」瓏琳は逆に、紘の言葉に呆れる。
「じゃ、保証書付きの家出。あるいは真実無二の家出」
「おいおい……自棄になってないか? お前」
「自棄にもなる! この一週間、病人扱いで下手に部屋から出る事も出来ねぇんだぜ? 毎日毎日一つの部屋の中に居てみろ! 思いっ切り自棄になるぞ!」紘は怒鳴った。「いっぺん試してみるか?」
「止めとく」瓏琳は苦笑いしながらも簡潔に答えた。「けど、しようがないさ。君を此処に置くにはそれなりの理由が無きゃならない。何しろこんな家だから客人の身元にもなかなか煩いし……。君は柘羅を助けたって事で一応理解を得てはいるけれど」
「解ってるって。だから大人しく病人してるんじゃないかよ」拵えた荷物を背負い、その重量を確かめながら紘は言った。荷物は彼の背中を殆ど覆っている。余り、大人しい病人が背負う物ではない。
「まぁまぁ、仮病ももう直治癒するよ。柘羅の奴もこっそりだけど、準備に奔走してるから」
「そう言やここ二、三日あいつの姿見てねぇな。何してるんだ?」紘はふと思い付いて尋ねた。尤も、彼はこの邸に来てから、殆ど部屋に籠もりっ切りだった。だから彼等の方から訪ねて来ない限り他人と会う事は無い。
「此処から逃げ出す計画の詰めを練ってる。それと余り普段と違う事してると怪しまれるからいつも通りにお勉強。何にしてもこの邸内の書庫に籠もってるよ」
「あいつっていつもそんな所に籠もってんの? 道理で顔色が白いと思った」
「俺も本当はもう少し表に出た方がいいとは思うんが……。何しろ琳璃が煩い。あいつが庭に出るだけでも大騒ぎなんだからな」瓏琳は呆れ顔で肩を竦めた。
「あいつ、どこか悪いのか? そこ迄表に出して貰えないなんて……」紘は心配になって訊いた。もし重い病気でも抱えているのであればこの旅の件は始めから考え直さなければならなくなる。
「いいや。身体はどこも悪くない。別に頭も悪くない。まぁ、時々馬鹿じゃないかと思う程呑気な所はあるが」
「確かに」紘は彼の見解を認めた。彼自身の見解と一致していた為だ。
「けど好い奴だよ」不意に、瓏琳は笑って言った。
「……そうらしいな」紘はそれも一応認めてやった。彼等とは未だ一週間程度の付き合いでしかない。だから疑い深い紘としてはそんな事を断言するのはいつもなら異常な事なのだが、彼等に関しては、何故か頷きたくなった。あるいは単に他人を信用してみたくなっただけかも知れないが。
そうだとしたらこいつの所為だよな――瓏琳をそれとなく見遣りながら紘は思った。こいつが余りに柘羅を信用しているから、そして柘羅もこいつを親友として信じているから、ついそれが――認めるのはかなり苦労の要る事だったが――羨ましくなったのだ。彼には一人もそんな相手が居なかったから。
しかしこんな思いをしている事は誰かに知られたくなかった。だから相手の言葉を認めつつも、捻くれた態度を取ってしまう。
「しかしこんな事すれば追っ手が掛かるんじゃないか? し――詞維和の伯父さんの手の者がさ」柘羅程ではないにしても、一応周囲の耳を警戒して紘は柘羅の一般向けの名前を用いた。
「だろうな」瓏琳は実にあっさりと認める。
「だろうなって……。拙いんじゃねぇのか? その伯父さんがどれ程の力を持ってるかは知らないが、奴にあれだけの護衛を付けられる奴だぜ? 金さえ出せばどんな奴だってあいつを連れ戻すのに手を貸すだろうし」
「紘……それってあの街の価値観で言ってるんじゃ……」
「ああ、ああ、どうせ俺は金で動く類だよ!」紘はかっとして怒鳴った。「けどな、俺なんか未だいい方だぜ? 話を聞いてから付くかどうか決める位だからな。金額だけで内容も考えずに自分を売る様な真似はしねぇ……! それに言っちゃ悪いがこんな価値観の奴なんざ、ざらに居るぜ? 金に困った事のある奴なら大抵そうさ!」暗に、金に困った事が無いであろう相手の価値観を責める。理不尽だ、と自分でも思いながら。
「……悪かった」瓏琳は素直に頭を下げた。ここで紘の機嫌を損じてはいけないと思った為でもあるかも知れないが、彼の眼は真剣だった。「そんな心算じゃなかったんだ。只、金がそれ程迄するに値するものだとは思えなくて……」
「価値はあるさ」紘は応えた。「少なくともそう思う奴にはな」
そしてそんな奴はごろごろしている。
「賞金でも懸けられれば目の色変えて追って来るぜ?」
「ああ……」瓏琳は頷いた。「確かにな。けどそれでも一応数は限定出来ると思う」
「何で?」
「あいつの伯父は事を荒立てたくないと言うか……表立って事を構えるのを望まない筈だ。追っ手を掛けるとしても追う相手の正体を知らせないんじゃないかと思える程……。表向きあいつが出て行った事さえ無かった事としようとする筈だ。無論、隠れて追っては来るだろうけれど」
「……何か……複雑な伯父さんだなぁ……」
「複雑な家系なんだよ」言って、瓏琳は肩を竦めた。
―つづく―
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Re:こんばんは
ふふふ、かなり展開遅いですね(^^;)
例の猫エイリアンとどっちが先に終わるか勝負です! なんちゃって★
例の猫エイリアンとどっちが先に終わるか勝負です! なんちゃって★
Re:力って…なんだろ
つくづく疑問系だね、君は(^^;)
でも、この話に関しては、割とまともなコメントだ!(◎o◎)
でも、この話に関しては、割とまともなコメントだ!(◎o◎)
Re:無題
は~い、有難うございます(^^)
かなりのんびり展開なので(苦笑)読む方もの~んびりどうぞ(←おい)
かなりのんびり展開なので(苦笑)読む方もの~んびりどうぞ(←おい)
Re:ん?またもや!ん・ん??
済みません、昔に書いた事もあってかかなり間延びした展開になってますね(汗)
纏め読みをお勧めしますm(_ _)m
纏め読みをお勧めしますm(_ _)m