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〈2008,2,17設置〉長編用ブログです。文責・著作権は巽にあります。無断転載は禁止とさせて頂きます(する程のものもありませんが)
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「何でだよ? 此処ならお前に取っちゃ、何の危険も無い筈だろ? それともその伯父とやらが財産狙ってお前をどうかしようとしてるとでも?」
「伯父は只僕を閉じ込めているだけだよ。けれどこの儘じゃこの状態も長くは続かない。いずれ壊れる……何もかも」
 解らん話だ――紘は溜め息をついた。家庭内の問題なら家族だけで解決して欲しい。何も他人を巻き込む事もなかろう。
 だが、本当にそれだけかと言うとそうとも思われない。大体それだけの事なら幾ら柘羅が非常識でも家族だけで解決しようとするだろう。何も身内の問題を表に晒す事などないのだから。況してや紘なんぞに助言を求めてもしようがない。
 それに、柘羅の口調と表情には、何か切羽詰った様子が感じられた。
 本当にこの儘では何もかもが壊れてしまう――そう信じている様に。そしてその何もかも、の中には彼自身の問題だけでない何かも含まれているかの様に。
 紘はじっと彼の表情を窺っている柘羅の目を見た。
 子供の様な、それでいて子供には無い深みがあると感じられる目。
「で……」紘は再び口を開いた。「この俺が只で付いて行ってやる理由がどこにある?」
 別にこの機に乗ずる心算でもなかったが、彼は遠回しに礼を求めた。あの日に会ったチンピラ連中と一緒にされるのは心外だが、彼にしても金が嫌いな訳ではない。どうしても、という訳でもないが、無いよりはあった方が遣り甲斐があるというものだ。
 世間知らずの柘羅も、流石に只で動く人間がそうそう居ると思っていなかった様で、彼は既に様々な礼の方法を考案していた。
「帰ったらこの邸で好きなだけのんびりしていてもいいし、用意出来るだけの金を持って出て行ってもいい。好きな様にしてくれればいい」
「俺を幾らで雇う、っていう事じゃないんだな」紘は僅かに口元を緩めた。自分より年下のガキに仕えたくはない。
「君の立場は雇い人なんかじゃない」柘羅はきっぱりと頭を振った。「僕と対等に付き合って欲しい。出来れば瓏琳とも」
「金貰うって話になってどうして対等に付き合えるって言うんだ?」
「それを言うなら僕は君に手伝って貰おうとしているんだよ? 金はその礼に過ぎない。僕は金なんかで君を買おうとも思わないし、それで君を縛りたくもない。只出来るだけ協力して貰いたいだけだ」
「お前って……本当に訳解んねぇな」紘はにやにや笑いながら言った。
 世間知らずで楽観的で――少なくとも紘にはそう思える――どうも奇妙な悩みを抱えているらしい。そんな奴なのに、妙な所、筋が通った事を言う。
 こいつはこれでなかなか付き合ってみる価値のある奴なんじゃなかろうか、と紘は考えて苦笑した。価値とは金の問題ではない。実際紘はそれ程彼からせびる心算は無い。
 と、不意に、重々しい扉が叩かれた。

 柘羅が一瞬、緊張した。
 紘迄が釣られて硬い表情になった程の急変振りだった。
 だが、乾いた音が三度響くと、柘羅の緊張は目に見えて消え失せた。安心してもいい相手と、取り決めをしているのだろう。
「瓏琳かい?」柘羅は自分で立って行って扉に掛けてあった閂を外した。質問してはいるものの、相手がその当人である事を疑いもしていない様子で扉を内側に引き開ける。
 実際、相手は紛れもなく瓏琳だった。余りに話が長引いている為に心配になって様子を見に来たのだろう。
「琳璃が心配してるぞ? 詞維和」彼は紘を一瞥してから口を開いた。一度振り返り、きっちりと扉を閉める。閂も忘れない。紘はちょっと、息が詰まった。
 柘羅は軽く苦笑してから紘に僅かに目をやって、改めて瓏琳に言った。
「いいんだよ。瓏琳。彼にはもう教えてある」諱の事だ。彼が意識して「詞維和」と呼んだ事に対して、苦笑を浮かべたのだった。
「もう?」流石に瓏琳は目を瞠った。「じゃあ、あの件は? 引き受けてくれたのか?」
「いや、答えは未だだけど……」
「なっ……! 柘羅! お前なぁ……!」瓏琳は喚いた。が、直ぐに口を押さえて、扉の向こうの様子を窺う。どうも誰かが見張っていると考えているのは柘羅だけではないらしい。
 暫くして瓏琳は誰にも聞かれていない様だと判断したらしく、再び口を開いた。
「仲間になるかどうかはっきりとしない奴に諱を教えるなんて一体何を考えてるんだよ? お前がどっか能天気で呑気な奴だって事は昔っから知ってたけど、此処迄とは思わなかったぜ」
 それでも真逆会った当初から諱を教えたんだとは思わないだろうな――紘は柘羅との出会いを思い出し、肩を竦めた。
 柘羅は瓏琳を宥めながら、これ迄紘と交わした会話を逐一話して聞かせていた。
「で? どうするんだ? あんた」我慢強く聞き終えた瓏琳は紘に尋ねた。「柘羅はあんたを必要としている。今から他の者を探すのもなかなか出来る事じゃない。況してやこいつの伯父にこの事が知られでもすれば二度と外に出る事も出来なくなる」柘羅と同じ様な事を言う。「それに何よりこいつはあんたが気に入ったらしい」にやりと笑って、彼は付け加えた。
 変な奴に気に入られたものだ。
「無事に帰って来られる可能性は?」紘は訊いた。
「五分五分、だな」瓏琳が答えた。「けどそんなものは俺達次第でどうにでも変えられるだろ。意地でも無事に帰って来る気ならな」
 流石は柘羅の親友――と紘は天を仰いだ。常識的で慎重な様でも、どこか楽観的だ。
 尤も、紘にした所で悲観的な性格ではない。
 あの街でうんざりする様な生活を送ってはいても、未だ自分を捨てて掛かってはいなかった。
 それだけにこの儘この旅に参加する事は躊躇われた。結構、未練たらしい奴だったんだな、と自分で自分に呆れる。
 だが、それ程のものか?――と自問する。今の生活が一生続ける程の価値のあるものか? 本当にこんな生活が気に入っているのか?
 家族も親友も無く……。
 それよりは未だこいつ等との旅の方がいいかも知れない。少なくとも退屈とは縁が切れそうだ。

                     ―つづく―
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こんばんは
紘の決意が固まり次第旅立ちかな?屋敷から脱出するのにまたまた…。大変かもー!?
どーする!どーなる?
冬猫 URL 2008/05/05(Mon)01:32:36 編集
Re:こんばんは
さてさて、どーなりますやら(←おい)
う~む、長編はどーも話が間延びする~(--;)
巽【2008/05/05 11:52】
こんばんは♪
紘はん、焦らしたらあきまへん!
理屈や理論ではなく動物的な勘を信じましょう♪
いざ!冒険の旅へ出発しようではないか!

これから益々面白くなるなぁ♪
o(^ー^)oワクワク♪
クーピー URL 2008/05/05(Mon)23:03:17 編集
Re:こんばんは♪
展開遅いですね、済みません(^^;)
紘は意外とごちゃごちゃ考える質になってしまったねぇ。
考えてるのか微妙なのが柘羅……★
巽【2008/05/06 14:51】
解らんするの?
解らんするの?
BlogPetの月夜 URL 2008/05/07(Wed)09:23:47 編集
Re:解らんするの?
解らんのは君のコメントだ(--;)
巽【2008/05/07 15:30】
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