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「詞維和? 何考え込んでるんだ?」彼が何か言い出さない内に、紘は尋ねた。そうすれば彼が物騒な事を言わないという訳でもないのだが、何を言い出すかと苦慮する時間は短くなる。しかし出来る事なら「何も」と答えて欲しかった。
が、彼の欲求を知ってか知らずか、柘羅は――。
「計画立てておいて今更何だとは思うんだけど……」などという不吉この上ない台詞で口を切った。
「おいおい、お前迄厄介な事言い出すんじゃなかろうな?」瓏琳がその先を察した様にそれを遮る。「大体計画立てたのはお前だぞ? その苦労を無にしていいのか?」
「僕は別にいいよ」柘羅は事も無げに言い、瓏琳は頭を抱える破目になった。
「お前……ひょっとして目的が達せられさえすればその過程はどれだけ苦労してもいいとか言い出さないだろうな」紘は恐る恐る質した。
柘羅は何の気負いもなく頷いた。
「……」紘は瓏琳と顔を見合わせた。
「勿論出来るだけ危険は避けるけど……」流石に柘羅はそう付け加えた。
しかしそれも同行者の為にそうするのであって、自分独りであればそんな考慮もしないのではないかと、少なくとも紘には思われた。柘羅にとっては身の安全以上に、目的地に一刻も早く着く事の方が優先課題の様だと。
「どうする? 瓏琳?」紘は既に諦め切った声で問うた。
「どうするって……」瓏琳は裏切り者を見る目で彼を見たが、紘は無視した。元々神経の強靭さには自信がある。
それに紘としては自分よりも年下で、ひ弱とも言えそうな柘羅に気遣って欲しくなかった。彼にも矜持というものはある。
「先ず話の続きを聞こうじゃないか」瓏琳は言った。
そう言えばその厄介事が具体的にどんなものであるか、聞いていないのだった。前奏だけである程度の予想が付いてしまい、その為に却って焦ってしまったのだが。
「この儘北へ行こうかと思って……」紘達が予想した通りの事を、柘羅は言った。
「壁はどうする」間髪入れず瓏琳が言った。「この街の周囲には軍の兵器でも無けりゃ簡単には破れない壁があるんだぞ? 乗り越えられる高さじゃないんだぞ?」
「その上見張りが居るんだろ?」紘が援護する。「出る事も出来ずに右往左往している間に捕まっちまうぜ」
「その見張りに出して貰う」
「ああ?」紘と瓏琳は期せずして不審げな声を揃えた。
「見張りの塔には外へ通じる階段があった筈なんだ。壁の外側の点検の為に出るのに態々門迄回るなんて事、しなくていい様にね」
「あ……阿呆……!」思わず紘は怒鳴っていた。「そんなもんがあるんならどうしてもっと早く言わねぇんだ! てっきり正門以外には出られる所なんか無いんだと思ってたから態々文句も言わずにこっちに来てたんだぞ!?」
「文句言ってたって……」という瓏琳の呟きは紘の耳を素通りした。
「けどどうやって見張りに出して貰うんだよ。見張りってのは出入りさせない為に居るんだろ?」
「余りやりたい事じゃないけど……暫く眠って貰う。その間に塔の鍵を借りて階段への扉を開ける。それが一番の早道だろう?」
「それはそうだけど……」瓏琳が気が進まぬ様子で呟いた。「お前、いいのか? それで」
力を使いたくない柘羅に態々そんな事をさせたくない――彼がそう考えているのは明白だった。
紘としても使いたくないと言う奴に術を使わせて迄そこから出たい訳ではない。そちらに回ったからと言って、事がそう容易に運ぶとは思われない。あるいは正門の方で門衛の目を誤魔化す方が簡単かも知れないのだ。
柘羅が始めからその階段の事を言い出さなかったのも、ひょっとしたらその手を使用するのが嫌だからなのかも知れないし。
しかし一度その可能性がある事を表明してしまった以上、柘羅は嫌だからなどという理由でその道を避ける事はしたくない様だった。自分が望んで旅に出ようと言うのだから、苦労ややりたくない事を避けてばかりもいられない。
能天気な様でもその辺は弁えているのだろうか――紘は僅かながらこのお坊ちゃん育ちの連れを見直す。
「僕は構わないよ。早く行ければどちらでも……。この力が役に立つならそれでも」柘羅はきっぱりと言い切った。
「ようし、方向転換だ」瓏琳がまた反論しない内に、紘はさっさと結論を出してやった。此処でいつ迄もぐだぐだと言っていてもどうしようもない。旅は未だ未だ始まったばかりなのだ。今から迷っていては先が思い遣られる。どんな形であれ、それが吉と出ようと凶と出ようと、迷いは吹っ切って行かなければならない。
おいおい……と後ろで瓏琳が情けない声を上げた様だったが紘は無視した。
柘羅は笑って、先に立って歩き出した紘に続く。
その柘羅に紘は顰めっ面を作って釘を差す。
「詞維和、笑ってる場合じゃないぜ? 此処から引き返すって事は、また一旦はあの邸の傍を通り抜けなきゃならないって事なんだからな。俺達が逃げ出した事はとっくに邸中に知れ渡ってる事だろうし。追っ手がその辺走り回ってる可能性もある。直接見知った奴ならその程度の誤魔化しが通用するとも思えねぇし……」柘羅が被っている襤褸布を示す。
「解ってるよ」と言う柘羅の返答に、紘は心底それを願った。
二対一で負けた瓏琳は最早口も出さずに、それでも時折何やらぶつぶつ言いながら半歩程遅れて二人の後を付いて来るのだった。
―つづく―
が、彼の欲求を知ってか知らずか、柘羅は――。
「計画立てておいて今更何だとは思うんだけど……」などという不吉この上ない台詞で口を切った。
「おいおい、お前迄厄介な事言い出すんじゃなかろうな?」瓏琳がその先を察した様にそれを遮る。「大体計画立てたのはお前だぞ? その苦労を無にしていいのか?」
「僕は別にいいよ」柘羅は事も無げに言い、瓏琳は頭を抱える破目になった。
「お前……ひょっとして目的が達せられさえすればその過程はどれだけ苦労してもいいとか言い出さないだろうな」紘は恐る恐る質した。
柘羅は何の気負いもなく頷いた。
「……」紘は瓏琳と顔を見合わせた。
「勿論出来るだけ危険は避けるけど……」流石に柘羅はそう付け加えた。
しかしそれも同行者の為にそうするのであって、自分独りであればそんな考慮もしないのではないかと、少なくとも紘には思われた。柘羅にとっては身の安全以上に、目的地に一刻も早く着く事の方が優先課題の様だと。
「どうする? 瓏琳?」紘は既に諦め切った声で問うた。
「どうするって……」瓏琳は裏切り者を見る目で彼を見たが、紘は無視した。元々神経の強靭さには自信がある。
それに紘としては自分よりも年下で、ひ弱とも言えそうな柘羅に気遣って欲しくなかった。彼にも矜持というものはある。
「先ず話の続きを聞こうじゃないか」瓏琳は言った。
そう言えばその厄介事が具体的にどんなものであるか、聞いていないのだった。前奏だけである程度の予想が付いてしまい、その為に却って焦ってしまったのだが。
「この儘北へ行こうかと思って……」紘達が予想した通りの事を、柘羅は言った。
「壁はどうする」間髪入れず瓏琳が言った。「この街の周囲には軍の兵器でも無けりゃ簡単には破れない壁があるんだぞ? 乗り越えられる高さじゃないんだぞ?」
「その上見張りが居るんだろ?」紘が援護する。「出る事も出来ずに右往左往している間に捕まっちまうぜ」
「その見張りに出して貰う」
「ああ?」紘と瓏琳は期せずして不審げな声を揃えた。
「見張りの塔には外へ通じる階段があった筈なんだ。壁の外側の点検の為に出るのに態々門迄回るなんて事、しなくていい様にね」
「あ……阿呆……!」思わず紘は怒鳴っていた。「そんなもんがあるんならどうしてもっと早く言わねぇんだ! てっきり正門以外には出られる所なんか無いんだと思ってたから態々文句も言わずにこっちに来てたんだぞ!?」
「文句言ってたって……」という瓏琳の呟きは紘の耳を素通りした。
「けどどうやって見張りに出して貰うんだよ。見張りってのは出入りさせない為に居るんだろ?」
「余りやりたい事じゃないけど……暫く眠って貰う。その間に塔の鍵を借りて階段への扉を開ける。それが一番の早道だろう?」
「それはそうだけど……」瓏琳が気が進まぬ様子で呟いた。「お前、いいのか? それで」
力を使いたくない柘羅に態々そんな事をさせたくない――彼がそう考えているのは明白だった。
紘としても使いたくないと言う奴に術を使わせて迄そこから出たい訳ではない。そちらに回ったからと言って、事がそう容易に運ぶとは思われない。あるいは正門の方で門衛の目を誤魔化す方が簡単かも知れないのだ。
柘羅が始めからその階段の事を言い出さなかったのも、ひょっとしたらその手を使用するのが嫌だからなのかも知れないし。
しかし一度その可能性がある事を表明してしまった以上、柘羅は嫌だからなどという理由でその道を避ける事はしたくない様だった。自分が望んで旅に出ようと言うのだから、苦労ややりたくない事を避けてばかりもいられない。
能天気な様でもその辺は弁えているのだろうか――紘は僅かながらこのお坊ちゃん育ちの連れを見直す。
「僕は構わないよ。早く行ければどちらでも……。この力が役に立つならそれでも」柘羅はきっぱりと言い切った。
「ようし、方向転換だ」瓏琳がまた反論しない内に、紘はさっさと結論を出してやった。此処でいつ迄もぐだぐだと言っていてもどうしようもない。旅は未だ未だ始まったばかりなのだ。今から迷っていては先が思い遣られる。どんな形であれ、それが吉と出ようと凶と出ようと、迷いは吹っ切って行かなければならない。
おいおい……と後ろで瓏琳が情けない声を上げた様だったが紘は無視した。
柘羅は笑って、先に立って歩き出した紘に続く。
その柘羅に紘は顰めっ面を作って釘を差す。
「詞維和、笑ってる場合じゃないぜ? 此処から引き返すって事は、また一旦はあの邸の傍を通り抜けなきゃならないって事なんだからな。俺達が逃げ出した事はとっくに邸中に知れ渡ってる事だろうし。追っ手がその辺走り回ってる可能性もある。直接見知った奴ならその程度の誤魔化しが通用するとも思えねぇし……」柘羅が被っている襤褸布を示す。
「解ってるよ」と言う柘羅の返答に、紘は心底それを願った。
二対一で負けた瓏琳は最早口も出さずに、それでも時折何やらぶつぶつ言いながら半歩程遅れて二人の後を付いて来るのだった。
―つづく―
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Re:こんばんは
果たして方向転換して、楽に出られるのか!?
そして柘羅のマイペースは直るのか!?――多分無理(笑)
そして柘羅のマイペースは直るのか!?――多分無理(笑)
Re:巽が欲求したの?
うん、まともな投稿して欲しいな~って(笑)
あややや・・・!
まんだ町から出れていないぃ~~!
おいおい!大丈夫かいな?
プリンスはドラゴンなんか呼べないのかなぁ?
さもなきゃ鳳凰でも良いけど、それで一気に
城壁を越えちゃおう!
そのまま目的地まで飛んでいってしまっては興をそぐから、エネルギー不足とか言う理由で、城壁を越すだけ!って事で、荒野は徒歩でトホトホ!
それじゃ、やはり面白くないか?(;´▽`A``
まとめ読みしても、やはり最後ってのはあるなぁ・・・・もう、次がないや!
ショボ~ン・・・・・
おいおい!大丈夫かいな?
プリンスはドラゴンなんか呼べないのかなぁ?
さもなきゃ鳳凰でも良いけど、それで一気に
城壁を越えちゃおう!
そのまま目的地まで飛んでいってしまっては興をそぐから、エネルギー不足とか言う理由で、城壁を越すだけ!って事で、荒野は徒歩でトホトホ!
それじゃ、やはり面白くないか?(;´▽`A``
まとめ読みしても、やはり最後ってのはあるなぁ・・・・もう、次がないや!
ショボ~ン・・・・・
Re:あややや・・・!
うう、頑張って続き書くからね~〆(>_<;)
流石に竜や鳳凰は――呼べたとしても――追っ手の目を誤魔化すのが大変そう(^^;)
う~む、短編と違ってなまじ昔書いた土台があるのがいかんのか……。幾らか改変してはいるんだけどね~。
流石に竜や鳳凰は――呼べたとしても――追っ手の目を誤魔化すのが大変そう(^^;)
う~む、短編と違ってなまじ昔書いた土台があるのがいかんのか……。幾らか改変してはいるんだけどね~。