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〈2008,2,17設置〉長編用ブログです。文責・著作権は巽にあります。無断転載は禁止とさせて頂きます(する程のものもありませんが)
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 紘達は次々に塀から飛び降りた。柘羅も案外身が軽く、機敏だ。
 流石は脱獄常習犯、といった所か。
 彼等は前々から調べ上げて置いた、地図にさえ載っていない様な細かい裏道を選んで、道を急いだ。尤も、どんな街であれ、そんな所は目立たない代わりに、出来れば目立ちたくない輩の溜まり場ともなっている。その大半は詰まらない罪を犯して逃れている者や、何らかの事情で姿を隠している者達だ。そして中には重罪犯も時折、紛れている。
 そういった者が居そうな場所を、紘は避けながら二人を誘導する。似た様な街に住んでいた者の勘で、そういう危険な場所はある程度嗅ぎ分けられるのだ。
「そんな連中は街の厄介者ではあるけど、本人も周りの者も知らない内に抑えになってるからな」小声ながら、紘は二人に話した。
「抑え?」瓏琳が首を傾げる。
「そいつが居る前じゃ、余所からの流れ者なんかは――まぁ、こいつ等も大抵は何処かで罪を負って来た様な奴が殆どなんだが――下手な事は出来ない。前々から居る奴等だってそいつの怖さを知っていれば迂闊に騒ぎは起こさないさ。ま、その辺はそいつの力量や器量に掛かってるけどな。名前だけの奴なら直ぐに反対に追い出される。本当に力のある奴なら、少なくともそいつの周りはそれなりに統率が取れてるもんさ。ま、悪党の基準だがな」紘は肩を竦める。
「けれどどうして判るんだい?」柘羅が尋ねた。「そういった者が居そうな所が」
「周りの連中の安心感と緊張感」と紘は答えた。
「安心感と緊張感……」柘羅は目を丸くしながらも、相反するその単語を復唱する。
「安心感ってのはさっき言った理由から来る。そいつの周りに付いて、そいつの機嫌を損ねなけりゃ、此処でやって行けるって事さ。その代わり、そいつの機嫌を損ねないようにしなけりゃならない。それをいつも考えてるもんだから、どこか空気がぴりぴりしてるんだよな。連中の周りは」
 更に言えばそんな者は時として大量の霊や、数は少なくとも悪質な霊に憑かれている場合がある。中には彼等自身が手に掛けた者も居る様だ。この国の普通の人間にはそれらが視える。それだけにその者の危険さが現実に目に視えるのだ。
 それが視えない紘は、その中では怖いもの知らずかも知れない。
 しかし生きている人間の怖さなら彼はよく知っている。
「いいか? 絶対に目立つ様な行動は取るなよ? もし向こうが絡んできても、絶対に真剣になるな。却って目を付けられるだけだからな」紘は歩きながらも口を酸っぱくして注意を促す。自分は未だいい。対処の仕方もある程度は知っている。しかし、この生真面目な瓏琳と、能天気な柘羅は心配だ。こんな所では生真面目は長所にならないし、能天気は寿命を縮めるだけだ。
 瓏琳はいい加減煩げに、幾度も頷いた。柘羅は苦笑している。
 笑ってられるのも今の内だぞ?――紘は最早注意するのにも疲れて、無言で唸った。
 しかし幸いにも彼の心配は杞憂に終わった。街の者達は見慣れない三人組に、何の興味も示さなかった。
 直ぐにでも目を付けられそうな柘羅に、襤褸布を被せて置いたのも成功だったかも知れない。紘は元々、似た様な街の感覚が染み付いているし、瓏琳は体躯がいい所為か、却って避けられている感さえある。しかし、なるべく目立たない、みすぼらしい格好をさせたにも拘らず、柘羅はこうでもしないと此処では浮いてしまうのだ。

 しかし街を無事に潜り抜けたとしても、問題はこれからだ。正門を抜けなければならない。そこでは襤褸布などで誤魔化されてくれる者も居ない。
「しっかし、不便だよなぁ……」街を抜けた所で、紘はぼやいた。「問題の塔があるのはこの国の北の辺境だろ? 俺達、門を抜けるのに南に向かってるんだぜ? それもこの街、なかなか大きいから……かなりの回り道じゃないか」
「まぁ、そうなるけど……。しようがないだろ? 此処しか門が無いんだから」瓏琳が口を尖らせる。彼も無駄だとは思っているらしい。しかし言ってもしようがない。それだけに言われるのが嫌なのだ。「大体計画立ててその通りに動き出しといてから文句言ったってなぁ……!」
「遅い、か」紘は軽く溜め息をつく。どうでもいいが瓏琳の直ぐムキになる癖はどうにかならないものだろうか? 柘羅の様な『暖簾に腕押し』も困ったものだが。
 その柘羅が妙に大人しいので、思わず紘は彼を振り返った。
 そして軽く眉を顰める。
 柘羅が何かを考え込んでいる様だったからだ。
 こんな時の柘羅は碌な事を言い出さない。この短い付き合いで紘はそれを学習していた。

                      ―つづく― 
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こんばんは
一カ所間違い~だよ。
『 それが視えない講は、その中では怖い…』

後、拓羅が被ってるのって、なーに?なんて読むの~?
冬猫 URL 2008/06/30(Mon)00:36:22 編集
Re:こんばんは
おおう∑( ̄□ ̄;)
直しときます〆(。。;)
襤褸布……ぼろぬの、だよ~ん☆
巽【2008/06/30 15:47】
きのう月夜が、本
きのう月夜が、本人は学習するはずだった。
だけど、月夜がそいつ対処するつもりだった。
でも、回り道された。
でも、月夜は、計画しないです。
BlogPetの月夜 URL 2008/07/03(Thu)09:38:57 編集
Re:きのう月夜が、本
何に対処する心算だったのかな? 計画もなしに?(^^;)
巽【2008/07/04 01:25】
館の脱出は成功だネ!
ふむふむ!残す所は町の門?
しかし・・・どうやって門を通過するんやろう?
町を取り囲んでいる城壁みたいなものを乗り越える事は出来ないのかな?

次行きまぁ~~す!
クーピー URL 2008/07/17(Thu)15:29:21 編集
Re:館の脱出は成功だネ!
纏め読み、お疲れ様です(^^)ノ
本当、進みが遅くて……orz
巽【2008/07/17 22:41】
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