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〈2008,2,17設置〉長編用ブログです。文責・著作権は巽にあります。無断転載は禁止とさせて頂きます(する程のものもありませんが)
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 二十代後半と思われる三人が、のっそりと近付いて来る所だった。この辺では長生きしている方だ。それだけしぶとく、また立ち回りが上手という事だ。
 紘は舌打ちした。この阿呆が何処の誰かは知らないが、せめてもう少しみすぼらしい格好でもしていてくれればよかったのだ。そうすればこいつ等もそれ程興味を持たなかったろう――いや、柘羅なら存在だけで奴等を引き付けたかもしれないが。
 柘羅は相変わらず危機感の無い表情で彼等を見ている。見ているのだから気付いてはいる筈だ。そして相手の人相風体が宜しからぬ事も充分見て取れる筈だ。それにも拘らず、彼の顔には緊張感の欠片も無い。
 度胸が据わっているのか、単に鈍いのか――紘は後者だと断定した。
「俺は関係ないぜ」紘は、柘羅にとも、三人の男達にともなく言った。あるいは双方に対して言ったのかも知れない。彼が此処迄来たから柘羅がついて来たとも言える。しかし、彼は柘羅を連れて来ようとした訳ではない。そもそもついて来るなどとは思っていなかったのだ。彼が此処に入り込んだのも、只塒(ねぐら)に帰ろうとしていただけの事で、こいつ等に餌を提供しようなどという気は毛頭無かった。
 しかし、この見ず知らずの少年を危地に招いてしまったと思う一方で、彼とは関わりが無いのだからという事も考えていた。彼がついて来たのは彼の勝手だ。第一見も知らない奴なのだから、襲うのならこいつだけにして欲しい。
 そんな考えが、先の言葉の裏に集約されていたのだろう。
 その、自分が言った事に気付いた途端、紘は顔が熱くなるのを感じた。何はともあれ、自分だけは逃れようとしていたのだ。柘羅に対しては自分が犯罪とは無関係である事を、この三人に対しては自分がこの獲物とは無関係で、即(すなわ)ち共に襲われる理由など無いという事を、それぞれ言い訳していたのだ。
 この街に生きてきたとは言え、浅ましい事だった。
 こうなったらこいつを連れて逃げるしかないな――と、紘は決心した。どちらが巻き込まれたのか、やや疑問ではあったが、彼をこの儘此処に見捨てて行く事は出来ない。そんな事をすれば彼もこの三人と同罪、詰まりは犯罪者だ。例え法が裁かなくとも。
 紘は柘羅の腕を取って引こうとした。
 しかし、柘羅はするりとそれを避けた。
 不審に思う間も無く、男達の一人の胴間声が響き渡った。

「おい! ここらで見掛けない奴がどんな目に遭うか、知ってるか?」顔は仲間の二人を向いていたが、紘達に聞かせようとしているのは明白だ。
「知ってるともさ!」一人が応じる。ひょろりとした、厭な目付きの男だ。無論、彼等は皆、厭な目付きをしているが。
「知らねぇ訳があるめぇ? どんな目に遭わせるかは……俺等次第なんだからよ」残る一人が哂う。魅力とは掛け離れた笑顔だ。
「殊に、身形のいい奴は気を付けなきゃならない」最初の男が言った。馬鹿でかい身体に纏った着物は継ぎ接ぎだらけ。髪は無い。多分剃っているのだろう。まぁ、剃らずにいた所で手入れなどする奴ではなさそうだから、ぼさぼさの髪を垂らしているよりはこの方がマシかも知れない。
「例えば?」ひょろりとした奴が顎を少年達の内の一人に向けた。「あんな奴か?」
 無論、彼の顎は柘羅を指し示していた。
 どうやら、彼等は紘は無関係、あるいは構うだけ無駄な奴と見てくれたらしい。
 然して嬉しくはない。それだけ身形がよくないと言われたも同然なのだから。
 癪に感じながらも、紘は柘羅に目配せした。早く逃げろ、と。それはこのどこかぼうっとした――少なくとも紘にはそう思われる――少年にも、意味は解った筈だ。
 にも拘らず、彼は只微笑してそれを無視した。
 紘は気分を害した。折角人が心配しているのに、こいつは本当に馬鹿なのか?
 男達は既に彼等から数歩の所に迄近付いていた。しかし、全力で逃げようとすれば逃げられる可能性はある。この辺には隠れた小路も散在し、紘はその殆どを知っているのだから。男達がそれらを知っているかどうかは解らないが、小柄なだけこの狭苦しい街中ではこちらに分がある。柘羅が逃げる気なら、安全な所迄案内してやってもいい。
 しかし彼は逃げようとしない。
 勝手にしろ、と毒づいて行ってしまおうかとも考えた。しかし、脚が重かった。こんな奴に関わりあっても、碌な事にならないのは充分に解っているのに、我ながらどうしようもないお人好しだと自覚しながらも、彼は柘羅を一人、この場に残して逃げる気にはならなかった。
 しかし無論、この三人に喧嘩を売る気も無い。彼は反射神経にも腕っ節にも、そこそこの自信はあったが、このひ弱そうな奴を庇いながらこの三人に対抗出来るとは思えなかった。大体柘羅は彼が言っても逃げようとしてくれない。これでは三人を全て片付けてしまわなくてはならない。彼等の注意を自分に向けながら柘羅を逃がすいう手も使えないという事だ。
 ええい! 厄介な――紘は唸った。
 男達はもうその長く丈夫な腕が届く位置迄来ていた。今更逃げは通用しないぞ、と紘は自分に言い聞かせた。柘羅の奴にも言い聞かせたい所だが、多分聞かないだろう。
「おい!」初めて、男は紘に目を向けた。ぎょろりとして、濁り切った黒い目だ。「てめぇ、こいつの友達か?」そうは見えないが、と続きそうな声だった。
「いいや、こいつが勝手について来ただけさ」紘は無愛想に応じた。愛想を売って見逃して貰おうなどという気は既に捨てている。
「そうか、なら無駄な手出しはしないな」それが賢明だぞ、と警告する様な表情で言うのに対し、紘は言葉を返した。
「それは……どうかな?」

                      ―つづく―
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